これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
明日から三日間、第 111 回医師国家試験が実施される。 諸君の健闘を祈る。
さて、敢えて今まで聞こえないふりをしてきたのだが、そろそろ我慢がならないので吐き出すことにしよう。 北陸医大 (仮) に来てから幾度となく耳にしたのが「発熱がないから血液培養は不要」という意見である。 意味がわからない。 このような主張が北陸医大ではまかり通っている、という事実が世に知られれば、我が大学の名声は地に落ちるであろう。
私は二年半ほど前、五年生の時の臨床実習で「原因不明の発熱をみたら、黙って血液培養を 2 セット施行せよ」と教えられた。 そりゃそうだ、と思ったし、なぜ、わざわざ「2 セット」などと、あたりまえのことを強調されるのか理解できなかった。 その一方で、「発熱がなければ血液培養は不要」などという説は、名古屋にいた頃には一度として聞いたことがなかった。 当然であろう。 敗血症において発熱は必須ではないし、むしろ体温低下型の敗血症すら存在する。 「発熱がないから血液培養を行わない」などという態度では、少なからぬ敗血症を誤診し、患者を死なせることになる。 なお、これを巡って私が失敗したことは 2 年ほど前に書いた。
「発熱がなければ血液培養は不要」という風説が、どこから発したのかは、知らぬ。 少なくとも、私の手元にある内科学、感染症学、細菌学などの教科書には、そのような記載は存在しない。 強いて挙げれば、グラム陰性菌の細胞膜に存在する LPS は発熱を惹起する、というのは有名な話であるから、 「発熱がないなら、グラム陰性菌感染症は考えにくい」と考えることには、一応の根拠がないわけではない。 もちろん、これは「グラム陽性菌感染症では発熱しないことも稀ではない」ということでもあるから、血液培養を不要とする根拠にはならない。
また、北陸医大で時に耳にするのが「血液培養のために大量に採血することは患者の負担になるし、貧血を増悪させる恐れがある」という意見である。 採血が患者の負担になるのは事実だが、しかし、感染症を正しく診断できずに対応が遅れれば、患者の負担どころか、命に関わる。 さらに「大量の採血」といっても、2 セットで 40 mL である。小児ならともかく、成人であれば、40 mL の採血で貧血がどれだけ増悪するというのか。 自分の頭では何も考えず、エラい人の言うことを無批判に受け売りしていると、そういう発想になるのだろう。
なお、某教授のために弁明しておくが、我が大学でも学生に対して「発熱がなければ血液培養は不要」などとは教えていない。