これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/02/04 本態性血小板血症

二年半ほど前に書いた記事に対する補足である。

本態性血小板血症は、JAK2 などの変異を背景として、骨髄中の巨核球や末梢血中の血小板が増多するものである。 MEDSi 『ハーバード大学テキスト 血液疾患の病態生理』、南江堂『血液専門医テキスト』改訂第 2 版、朝倉書店『内科学』、 血液学の名著である Kaushansky K et al., Williams Hematology, 9th Ed. (2016)., そして止血・血栓学の名著である Marder VJ et al., Hemostasis and Thrombosis, 6th Ed. (2013). は、 いずれも、症候の有無を問わず、原則として本態性血小板血症の全例に対し抗血小板療法を行うことを推奨している。 なお、無症候性の本態性血小板血症に対して抗血小板療法を行うことについての理論的、あるいは統計的根拠は、どこにも示されていない。

これに対し Kasper D et al., Harrison's Principles of Internal Medicine, 19th Ed. (2015). は、 無症候性で心血管危険因子を有さない患者は治療を要さない、と述べている。

これは、ハリソンの方が正しい。 血小板が多いこと自体が血栓形成を促すという報告はないし、生理学的に考えても、そのような現象は考えにくい。

当時の記事に明記した通り、二年前の私は、ハーバードとハリソンのどちらが正しいのか判定できなかった。 しかし今では「ハリソンの方が正しい」と、自信を持って言うことができる。 あまり意識はしていなかったが、医学に対する私の理解は、この二年間で少しばかり深まったようである。

話は変わるが、月刊「臨床検査」の今月号では、血小板機能検査が特集されている。 基本的な内容が簡潔にまとめられており、ややこしい分子的シグナル云々の話は省略されており、初心者にも読みやすい。 もちろん日本語であるし、臨床検査医学に詳しくない一般的な研修医でも理解できるような内容である。 血小板機能障害についてよく知らぬ、という人は、ぜひ、読んでみると良い。


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