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2017/03/25 献血者検診

北陸医大 (仮) の研修医は、1-2 ヶ月に一回程度、研修の一環として、献血者検診を行う。 以前は二年次研修医のみが行っていたが、諸般の事情により、今年の初め頃から一年次研修医も行くようになった。 過日、私は、3 回目の献血者検診を行った。

献血を行ったことのある人なら知っているだろうが、検診といっても、簡単な問診と血圧測定ぐらいしか行わない。 献血ルームなどであれば心電図検査を行うこともあるが、せいぜい、その程度である。 これらの情報から、献血することで増悪する恐れのある病気の恐れのある人や、あるいは血液製剤の安全が脅かされる恐れのあるような人について、 献血をお断りするのが我々の主たる任務である。 もちろん、採血中に体調を崩した人の救護にもあたるが、今のところ、私は、そういう場面にでくわしていない。

どういう人について献血をお断りするのか、という点については、日本赤十字社がおおまかな指針を示しているが、かなりの程度は検診医の裁量に委ねられている。 たとえば高血圧の場合、収縮期血圧 180 mmHg 以上や拡張期血圧 100 mmHg 以上の場合は、断わっても良いし、大丈夫そうだと判断すれば献血していただいても構わない。

前回までの経験で私が悩んだのは、血圧の左右差である。 たとえば、右腕で測った収縮期血圧が 160 mmHg 程度で、念のため、と左腕で測ったら 190 mmHg、もう一度右で測ったら、やはり 160 mmHg, という場合は、どうするか。 血圧の左右差は、鎖骨下動脈などの太い血管が狭窄している、などの病変が存在する可能性を示唆する。 まぁ、そこで 400 mL の採血を行ったからといって、ただちに重大な異変が生じることは稀だとは思うが、しかし、 高度の動脈硬化性病変がある人から大量採血するのは、怖い。 もし内頸動脈の狭窄なども合併していたら、たとえば一過性脳虚血発作や、てんかん発作などを来すかもしれぬ。 私は臨床医としてはヘッポコであり、「単独では最も役に立たない」と言われる病理医の卵である。 指導医もいない状況で、採血中に失神した患者に対する救急対応など、やりたくもないし、患者としても、やられたくないであろう。 なので、そういう懸念を拭いきれないという理由で、血圧に明らかな左右差のある人の献血は断る方針でやっている。

ただし、左右差を理由に断わるのは献血者検診では一般的ではないらしく、血液センターのスタッフからは、少し嫌な顔をされたこともある。 それでも、献血者の健康と安全を守るのが我々の任務なのだから、知らん顔をして断わるのは、適切な対応であると思う。

ところで、献血者検診を行っていると、実は献血者は問診に対して正確なことを答えていない、ということがわかる。 皆、あまりに健康なのである。過去一年に、何も怪我や病気をしていない人が多すぎる。花粉症や感冒の患者ぐらい、もっとたくさん、いるはずである。 また、何か薬を飲んでいる人も、もっと多いのではないかと思う。 「このくらいの薬なら、構わないだろ」と自己判断して申告しない例が、少なくないのではないか。 しかし医療の立場からすれば、漢方薬やサプリメントでさえ「薬」の範疇に入るし、薬局で買えるような薬でも実は献血に不適なことがあるので、正直に申告していただきたい。 さらに、病院で行った献血に際して、医療従事者なのに「職場に、肝炎になった人はいない」などと申告する人も多い。 病院なら、肝炎の患者ぐらい、いくらでもいるだろう。なのに、意識から抜け落ちているのか知らないが、そのような事実に反する申告をするのである。

なお、「HIV 検査目的の献血ですか?」という問いに対して「はい」と答えた正直者をみたこともある。 正直なのは結構であるし、HIV 検査を実施しているのも事実であるが、検査結果が陽性であっても、現状では供血者に対する通知は行っていない。 通知した方が良いのではないか、という意見もあり、今後は変更されるかもしれないが、現時点では、心当たりがあるなら献血ではなく保健所か病院に行くべきである。

2017.03.26 誤字修正

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