これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/03/23 多能性幹細胞を用いた再生医療 (3)

私は、多能性幹細胞を用いた再生医療が、嫌いである。理由は、3 つある。

第一には、至極個人的な理由であるが、信仰上の問題である。 私は、聖書は信仰していないが、本質的にはキリスト教徒である。 カトリックの連中は「生命の誕生は神の領分である」という理由で、避妊や体外受精、そして ES 細胞を利用する技術などを批判する一方、 iPS 細胞については歓迎する旨のコメントを発したことがある。 ヴァチカンは生命科学を理解していない、と言わざるを得ない。 iPS 細胞を用いれば、理論上、繊維芽細胞から受精卵を作ることが可能である。 これは、カトリックの忌み嫌う、人の手による生命の創生そのものである。 iPS 細胞というのは、本質的には、そうした生命の神秘を侵す技術なのであって、キリスト教的価値観からすれば、踏み込んではならない領域である。

第二には、流行だから、嫌いである。 iPS 細胞は、それ自体も何かの役に立つかもしれないが、単なる知的好奇心という観点からすれば、たいへん、面白い現象ではある。 しかし、それに群らがる「医学者」連中は、その学術的有用性に真に期待しているというよりも、 予算を獲得しやすい、論文を書きやすい、という理由で、研究しているのではないか。

科学者の誇りは、どこに行ったのか。 流行に乗って、それで大成した科学者は、歴史上、一人として存在しない。

第三の、そして唯一の客観的な理由は、疾患の本態に対する理解と、それに基づく理論的考察が欠如しているからである。 血液疾患に対する造血幹細胞移植などの一部の例外を除けば、多能性幹細胞を用いた「新しい治療法」の多くは、はなはだ稚拙な論理に基づいている。 これをもてはやすマスコミや、学生、若い医師なども、キチンとした医学的考察を怠っており、怠慢であると言わざるを得ない。 理論的根拠を欠く場当たり的な治療法が、本当に有効であることは、極めて稀である。 それ故に、過去の医学者達は単なる経験を信用せず、医学理論を確立することが重要であると説いたのである。

ほんとうに患者のことを考えている医者が、はたして、今の日本に、どれだけ存在するのか。 教科書に記載されているから、偉い人が勧めていたから、ガイドラインに書いてあるから、という理由で診療を行う医者は、真に患者のことを考えているとはいえない。 「私は非才であるから」と言い訳する者もいるが、医者でありながら不勉強であるという事実自体が罪である。 もちろん、本当に必死に勉強して、なお能力が至らなかったのであれば、本人の責任ではない。 しかし「不勉強」と言い訳する医者は、まず間違いなく、必死に勉強してはいない。


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