これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/01/16 教科書を読む

MEDSi『ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理』第 3版、という教科書がある。言うまでもなく、心臓の教科書である。 これはハーバード大学の教員と学生が合同で作った、学生向けの教科書の訳本である。名著である。 原書 (5th Ed.) が出版されたのは 2011 年で、訳書は 2012 年である。2015 年には原書第 6 版が出版された。

私がこれを購入したのは 2014 年の 4 月、五年生の頃であった。 臨床実習の際に、この教科書を抱えていったところ、若い指導医から 「すごい本を読んでいるな。それは循環器の医者が読むような教科書だ。」と言われた。 しかし冷静に考えれば、この教科書はハーバードでは学生が当たり前に読んでいるのだから、この指導医の言葉は問題発言である。

ところで、我が北陸医大 (仮) は、優秀で意欲的な学生に恵まれている。 ブラブラと図書館に行くと、しばしば、この「ハーバード大学テキスト」などを机上に広げて勉強している学生をみかける。 また、我が図書館に所蔵されている丸善『ハーバード大学講義テキスト 臨床薬理学』原書 3 版も、よく使い込まれているようで、既にクタクタになっている。 こちらの方は、もしかすると医学科ではなく薬学部の学生が主に読んでいるのかもしれないが、 いずれにせよ、キチンとした成書を開く習慣を持った、立派な学生が多いことの証左である。

図書館では、他に、医学書院『標準組織学』を机上に置いている学生も、しばしばみかける。 つい最近知ったのだが、この教科書は藤田恒夫と藤田尚男の二人のみの手による共著である。 標準シリーズは、大抵、多数の著者によるオムニバス形式なのであるが、「組織学」は例外らしい。 なお、藤田恒夫は 20 世紀後半の日本で有名な解剖学者である。 医学科の学生であれば、藤田恒夫と寺田春水の『解剖実習の手びき』の世話になった者は多いであろう。 この『標準組織学』は、読者に対するメッセージを重視し、学生の知的興奮を呼び起こすことを企図して描かれた名著である。

私の学生時代には、『標準組織学』ではなく、伊藤隆『組織学』改訂第 19 版で勉強していた。 伊藤隆は、北海道大学の名誉教授であるが、名古屋大学の出身であり、 『組織学』も名古屋大学における講義・実習から生まれたものであるという。(参考) この『組織学』は、もちろん、名古屋大学だけでなく、全国的に高い評価を受けている。 CiNii で検索すると、全国 209 の大学図書館に所蔵されているらしく、たぶん、どこの医学部図書館にも置かれているであろう。 と、思っていたのだが、過日、実は我が北陸医大図書館には第 18 版が所蔵されているのみで、2005 年に出版された最新の改訂第 19 版が収められていないことを知り、愕然とした。 これほどの名著が所蔵されていないとは、大学の医学図書館としての沽券に障る。 昨年、私は北陸医大の医師に対し挑発的なことを書いた。 書いた以上、私も、相応の行動を示さねばならない。 そういうわけで、『組織学』を図書館に寄贈しておいたから、近いうちに、書架に並ぶはずである。


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