これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
同期研修医と話す際、私はしばしば「仕事なんか、やってないよ」と放言している。給料泥棒なのである。
臨床診療科の場合には、入院患者についての定型的な入力業務などを研修医が「仕事」として行うことは、ある。 しかし、これまで研修を受けた診療科においても、実は私は、そういう業務を指導医に任せてしまうこともあり、あまり積極的にはやらなかった。 さらに現在は病理部で研修を受けているが、検査部の時と同様で、研修医風情が病理部の仕事など、できるわけがない。 私の練習のために、切り出しなどをやらせてもらうことはあるが、診断業務の観点からいえば、私は指導医の邪魔をしているだけであって、仕事をしているわけではない。
そういう意味では、私はたぶん、北陸医大 (仮) で一番「働いていない研修医」である。 同期研修医の一部からは「とんでもない野郎だ」などと思われているフシもある。 しかし、私は、自分が不良研修医であるとは思っていない。 だいたい、入院患者についての入力業務などは、それが自分の勉強になる部分はあるものの、「仕事」としてみれば、月給 31 万円相当の労働とは思われない。 それをやっているからといって「研修医としての仕事をやっている」とは、言えまい。
研修医としての本来の仕事は、大きく二つ、患者に対するムント・テラピーと、指導医に対する適切な質問、であると思う。
ムント・テラピーというのは、「口で治す」という意味のドイツ語に由来する医療用語である。 患者の話をよく聞き、適切に話をすることで心身の回復を助ける、という意味である。 昨今では、この語を「インフォームド・コンセント」や「治療方針などの説明」などと同義で使う医師もあるが、それは原義とは違う。 患者からすれば、我々研修医は、主治医よりは立場が近く、一方では学生とは異なり「一応は」医者である。 それゆえに、主治医や看護師には言いにくい愚痴のようなものを、我々に対してだけ吐き出すことがある。 それをじっくり聞くというのは、研修医にしかできない仕事である。
もう一つ、指導医に対して適切な質問をする、というのも重要な仕事である。 これは、現にみている患者についてでも良く、それ以外でも良い。 研修医らしい、初々しい、あるいは素朴な質問を投げかけることは、互いの利益になる。 これも、研修医の重要な仕事であろう。 ただし外科系診療科や某内科では、私はあまりキレのある質問をできなかったから、ろくに仕事をしていなかったことになる。
結局、私が仕事をしていないことは間違いない。単に北陸医大に寄生している、というのが現状である。 しかし、そういう私を採用したことは、いずれ北陸医大にとって大きな利益となるであろう。