これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
さて、糖衣 glycocalyx の存在、正確にいえば subglycocalyx space の存在を考慮することで、どうやら血管内外の水の移動を理論的に説明できそうだ、 という話を前回までに書いた。 まだ確立されてはいない理論ではあるが、たとえば炎症に際しては、たぶんサイトカインの影響により、この糖衣が変性・脱落することで、 血管内から subglycocalyx space への水や膠質の移動が亢進し、結果として浮腫が生じると推定される (Ushiyama A et al., J. Intensive Care 4, 59 (2016).)。
また、ネフローゼ症候群における浮腫の機序も、糖衣の障害であると推定される。 すなわち、ネフローゼ症候群の本態は、何らかの機序による糖衣の変性・脱落であると推定される。 腎糸球体で糖衣が脱落すれば、アルブミンなどが尿中に逸脱する。 また、全身の毛細血管で糖衣が脱落すれば、浮腫となる。 すなわち、低アルブミン血症と浮腫は、いずれも糖衣障害の結果なのであると考えられる。 実際、ネフローゼ症候群の患者においては糖衣傷害が起こっていることを示唆する報告もあり、この考えを支持している (Salmito FTS et al., Clinica Chimica Acta 447, 55-58 (2015).)。
さらに想像を進めれば、手術後の体液貯留、いわゆる「サードスペースへの水貯留」も、糖衣障害で説明できるだろう。 すなわち、手術侵襲により、局所、あるいは人工呼吸器を使用した場合には肺などにおいて、炎症性サイトカインの産生が起こり、糖衣障害を来し、 結果として水が subglycocalyx space や間質に移動すると考えられる。