これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
私は、医学科 5 年生後半ぐらいから、英語の教科書に手を出すようになった。 というより、その頃になって、ようやく、医学の基礎的な学識がある程度整い、英語の教科書を読めるようになってきた、というのが正しいだろう。
残念ながら、日本語で読める医学の教科書には、名著が少ない。 だいたい、試験対策のアンチョコ本や、「臨床で明日から役立つ」と称した軽薄で中身の乏しい書物が多いのである。 中には、清水宏『あたらしい皮膚科学』第 2 版や、切替一郎『新耳鼻咽喉科学』改訂 11 版などといったキチンとした内容の教科書もあるのだが、だいたい学生向けであり、踏み込んだ専門的な内容は記載されていない。 本当に専門的な書物となると、英語しかないのである。
そこで私は、医学の専門的な書物を蒐集し、蓄えている。 その費用は、学生時代にはスポンサーからの資金に頼っていたが、研修医になってからは、給与額面の 20 % 弱を投入することにしている。 すると、だいたい、月に 1 冊か 2 冊の専門書を購入するぐらいのペースになる。 なお、世の中にはUpToDateという有名なオンライン教科書もあるが、これは臨床医療に特化した「立派なアンチョコ本」であって、学術的な内容は乏しい。
言うまでもないことだが、私は、これらの書物を蓄えるばかりで、あまり読んでいない。読めるわけがない。 だいたい、何か疑問が出てきた時に、辞書のように使って調べるだけである。 本当は、最初のページから最後のページまで通して読むべきなのだが、さすがに、時間と気力が足りない。 全部をキチンと読もうと思ったら、一日のうち 12 時間を読書に費やしても足りないであろう。
それでも、こうした書物を買って手の届くところに置いておくことには、意義がある。 わからないことがあった時に、アンチョコ本やインターネットで簡単に調べてわかったフリをするよりは、こうした教科書の関連ページを読んだ方が、より理解は深まるからである。 なお、こうした専門書は多数の著者による共同執筆であることが多く、結果的に、各章の内容が独立し、全体を通したストーリーは乏しい。 これは通読する際には大きな欠点となるが、辞書的に使っても断章取義になる恐れが少ないという安心感にはつながっている。
もちろん、臨床で直ちに役立つ知識を得るには、こうした本は非常に効率が悪い。 しかし、そこで効率を求めた医者が将来、どのようになるのか、私は知らぬ。