これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/05/24 名古屋大学時代の同級生

ある日、某製薬会社が主催して、若手医師向けの Web カンファレンスというものが開かれた。 これは、S 医大の某教授が講演する内容を、インターネットで配信するというものである。 カンファレンスとは言っても基本的には一方通行の講演なので、まぁ、オオヨロコビして興奮しながら参加するほど面白いものではない。 が、勉強にはなるので、我が北陸医大 (仮) の某診療科の場合、会議室に若手医師数名が集まって視聴した。

テーマは「敗血症」である。 今年の 2 月、米国の集中治療医学会が「敗血症 sepsis」という語について、従来の定義は医学的に不適当である、として、新しい定義を発表した。 今回の講演は、この「新定義」を説明するような内容であった。

私自身は、この「新定義」は不適当であると考えている。 詳細については後日、詳しく議論しようと思うのだが、要するに、「新定義」では敗血症の病理学的実体が曖昧になっているように思われる。 はたして、その曖昧な概念が、臨床的に本当に役立つのかどうかは疑問である。 これに対し従来の「診断基準」は特異度が低いものの、定義自体は病理学的実体を反映しているという長所があった。これは、病態を的確に理解して対応するために重要なことであり、「新定義」より勝る。 ただし、「新定義」と一緒に提案された「新診断基準」は、学術研究のための「分類基準」としては適切であると思われる。

ところで、この Web カンファレンスの中で、演者である S 医大の某教授は、自大学の学生が臨床実習の一環として発表した内容を紹介していた。 内容は、敗血症の「新定義」を巡る論文を読み、内容を簡略に説明した上で批判的吟味を加える、というものである。 これは、「我が S 医大の学生は、こんなに立派な発表をしているのだぞ」と全国に自慢したい気持ちの表れでもあり、それをみた若手医師らが発奮することを期待したものでもあるのだろう。 確かに、よく勉強した様子の伺える内容ではあった。 だが、「批判的吟味」とは言いつつも、基本的には、その論文の瑣末な点をつつくような批判が述べられているだけで、全力で著者と向き合ってはいないように感じられた。

これに対し、私の名古屋大学時代の同級生でいえば、学士編入組を除外しても、M 君、A 君、I 君、Y 君などといった、安易に権威に迎合しない、確かな医学的精神の持ち主がいた。 彼らであれば、「新定義」そのものを否定する勢いで批判的吟味を展開したであろう。 そうした積極性と学識を併せ持った学生が揃っているという点において、名古屋大学は、確かに名門である。

ただし、上で挙げた M 君、A 君、I 君、Y 君の 4 人は、全員、卒業後は東京に去った。 この事実を、名大医学科の関係者は、厳粛に受け止めるべきである。

2017.01.02 余字削除

戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional