これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/05/20 北陸の医学の未来

学問をしている人なら、何か感動的なことを学んだ時に、それを誰かと共有したくて、学友や同僚にベラベラと語った経験のある人は多いであろう。 私の場合、学生時代、たとえば心臓外科学を学んでいて「フォンタン手術」と呼ばれる手術法の理論的背景に感動したとき、近くを通りかかった知り合いをつかまえて「心臓外科学が大好きかね?」と問うた。 こういう場合、相手は大抵、心の中で「面倒な奴が来たな」などと思い「いや、あまり興味ないね」などと言うのである。 しかし私は「いや、医者の卵なのだから、興味がないはずがないだろう」と言い、相手の言葉を無視してフォンタン手術について語り始めるのである。 こうした私の「鬱陶しい」医学トークに対し、暖かく見守って、つきあってくれる同級生や下級生は多かった。こういう学生が多いという意味において、確かに、名古屋大学は名門であった。

もちろん、我が北陸医大 (仮) も北陸を代表する名門大学であるから、同期の研修医には優秀な人物が多い。 先日、私がカルバペネム系抗菌薬が中枢神経毒性や腎毒性をもたらす機序や、メロペネムの長所について研修医室で語った際、そこにいた三人の研修医が耳を貸してくれた。 もちろん、彼らも内心では「暑苦しいやつだな」などと思っていたかもしれないが、それでも話は聞いてくれるのだから、ありがたいことである。

もちろん、こういう私の態度を疎ましく思う人も少なからず存在することは、承知している。 私は「我々こそが北陸医大を日本一の大学に引き上げるのだ」と公言しているが、「いや、そういうのイラナイから」とか「そっとしておいてくれ」とかいう声も、もちろん、あるだろう。 彼らの一部が私を危険人物としてマークし、なるべく関わらないようにしていることも、知っている。 しかし、私としては、彼らに対し配慮するつもりはない。 そこを譲歩してしまえば、今度は、私が見捨ててきた名古屋の人々に対して、申し訳が立たないからである。

ところで、過日、病院から自宅に帰るバスの中で、近くの席に座った 20 歳前後の若い女性二人組の会話が耳に入ってきた。 どうやら、二人は北陸医大の学生のようであり、学年はよくわからないが、たぶん三年生以下ぐらいであるように思われた。 そのうちの一人は、どうやら医学研究に強い関心を持っているらしく、次のような発言をした。 「医学部に入ってみると、周りは『なんとかして医師免許を取れれば、それで良い』というような人ばかりで、がっかりした。」

彼女をがっかりさせてしまうような北陸医大の現状は、もちろん、重大な問題である。しかし私は、そうした志の高い学生が北陸医大にも存在することに安堵した。 我々は、彼女のような学生諸君の希望や意欲を支えていかねばならぬ。


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