これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2016/05/16 給与明細

世間では、医師は高給取りであると認識されているようである。 一方、少なからぬ医師は「仕事のキツさ、責任の重さに比べれば安い」あるいは「時給換算では安い」などと言う。 一体、どちらが本当なのか。 参考のため、私の給与明細の内容を抜粋して転載しよう。 他の病院でもだいたい同じだと思うが、我が北陸医大 (仮) の研修医の給与額には年齢が考慮されないので、これは 24 歳の新人が受け取る給与額として解釈していただければ良い。

現金支給額338, 174
振込額338, 174
手渡額0
給与期間28. 4. 1- 28. 4. 30
減額0
本給支給額186, 350
住居手当0
時間外労働時間等0
時間外労働手当等0
特殊勤務手当125, 380
通勤手当79, 380
給与支給総額391, 110
控除額合計52, 936

私はバス通勤であるので、交通費は 6 ヶ月定期に相当する額を半年毎に通勤手当として支給されることになっている。 この分を差し引けば、手取り額は約 25 万円である。 なお、これは研修医の中でも最低クラスの給与額であるらしい。 名古屋大学の研修医は、もう少し多めに受け取っているはずだし、市中病院の中には、研修医の月給が 50 万を超える例もあるという。

ところで、北陸医大における時間外労働の扱いについては若干の説明を要するだろう。 北陸医大の場合、指導医の指示によって直接患者の診療にあたった場合などについては「時間外労働」として計算される。 ただし、カンファレンスへの参加や、指導医の指示によらない自発的な診療等は時間外労働には含めない取り決めになっている。 さらに、時間外労働を行った場合であっても、研修医手当 (給与明細上は「特殊勤務手当」) が時間外労働手当に充当されるので、実際の支給額は増えない。 こうした取り決めが適法かどうかについては議論の余地があるだろうが、その問題については、ここでは言及しない。

現実的には、我々は指導医から細かな指示を受けずに自分で判断して行動するのだから、時間外労働は事実上無制限であり、しかも時間外労働手当は支給されない。 こうした実態を考えると、北陸医大における研修医の扱いは、労働基準法上、重大な問題があると言わざるを得ない。

ただし、これは、北陸医大の労働環境が劣悪であることを意味しない。 そもそも私は、自身の学識を磨き、医師としての技を鍛えるために、研修を受けているのである。 病院のために働いているわけでもなければ、眼前の患者を救うために動いているわけでもない。 その患者の利益だけを言うなら、私などが診療するより、他の医者に診てもらった方が良いに決まっているのだ。

つまり、私は、私のやりたいことを、私のやりたいように実行しているに過ぎない。 結果的に病院の診療を少しばかり助けているかもしれないが、病院のために貢献しようという意思は全くない。 労働力を売り渡しているつもりがないのだから、労働者としての権利、対価を声高に主張しようという気にもならない。


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