これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
たぶん、他の多くの大学病院でも同じだと思うのだが、我が北陸医大 (仮) の初期臨床研修プログラムでも、「たすきがけ」が行われている。 これは、二年間の研修のうち、最大一年間を市中病院で受ける、というものである。 これは、市中病院での研修を特に推奨しているというわけではなく、あくまで、希望すればたすきがけが可能、との位置づけであるらしい。 私自身は、市中病院での研修に魅力を感じていないので、二年間全てを大学で過ごすことを選んだ。
さて、私は、二年間のうち三ヶ月を某診療科での研修に費やす予定になっている。 これを知った某若手医師は、その診療科については北陸医大より隣県の某大学の方が強いから、研修は北陸医大ではなく、たすきがけ先の市中病院で受ける方が一般的である、とのコメントをくれた。 このような「強い」という表現は、学生時代にも、しばしば耳にした。 「○○病院は△△科が強い」といった具合であり、△△科を志望する学生が研修先として○○病院を選ぶ理由として挙げられていたのである。
この「強い」という言葉の意味が、私には、よくわからない。 学生時代に周囲に聞いてみたところ、キチンと把握している人は皆無であった。 おおまかな雰囲気としては、その診療科の症例数が多い、あるいは医師数が多い病院が「強い」と言われるらしい。しかし、その基準で言えば、たとえば大量の医師を抱えて虫垂切除術ばかり一年中行っているような病院も「消化器外科が強い」ということになるが、それで良いのだろうか。
さらにいえば、症例数の多い病院が、研修先として良いかどうかも疑問である。 とにかくたくさん経験を積んで、考えなくても勝手に体が動くようにトレーニングしたいならば、症例数の多さは重要であろう。 しかし、医師の本来の仕事が、そのような知性を必要としない肉体労働であるのかどうかは、私は知らぬ。
私の場合、あくまで病理医の卵として初期臨床研修を受けているのだから、内科や外科の仕事をデキるようになることは必要ない、と考えている。 的確に動脈採血ができるとか、中心静脈カテーテル留置ができるとかいうことは、重要ではない。 むしろ、診断の過程をよく理解し、臨床医が何を考えて、何を期待して病理診断を依頼するのか、そしてその診断結果が診療にどう影響するのか、ということをよく理解することこそが、私にとっての最優先事項である。
外科志望の研修医であっても、いたずらに手技を誇ることは危険であろう。 ただ手術のやり方を修得するだけなら、医学部六年間など必要なく、高卒の若者に直ちに手技の訓練を施した方が良い。 それをしないのは、外科医にも、内科医と同じように、よく理解し、考えることが求められているからである。 一部の研修医は、手技を誇り、時に「考えなくても体が動く」ことを自慢するようであるが、危険な風潮である。