これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
医師の中には「分類する」ということの重要性、あるいは本質を、よく理解しない者が多いようである。 私は、膠原病の分類を確立することをライフワークとしたい、と考えているのだが、その意味するところは、なかなか、伝わらないのである。
疾患を適切に分類する、ということは、その疾患の本質を捉える、ということと同義である。 たとえば、なぜ、肺扁平上皮癌と肺腺癌は別疾患として分類されるのか、を考えよう。 病理組織学の立場からいえば、扁平上皮細胞と腺細胞とは形態的にも機能的にも大きく異なるのだから、主として前者から成る癌を、主として後者から成る癌から区別する、 というのは自明な発想である。 また呼吸器内科学的観点からすれば、放射線感受性や抗癌化学療法感受性などの観点からいって、扁平上皮癌と腺癌とでは治療戦略が大きく異なるから、 やはり、これらは別疾患とみなした方が都合が良い。 しかし、こうした病理組織学的観点も、呼吸器内科学的観点も、いずれも、扁平上皮癌と腺癌とを別疾患とみなす根拠としては不充分である。
たとえば、胃の非腫瘍性ポリープのうち、いわゆる過形成性ポリープと胃底腺ポリープについて考えると、 これらは病理組織学的には異なる疾患として分類されるが、臨床的には、治療方針にも予後にも特に大きな違いは生じない。 これを、もし病理医が「組織学的に違うから」というだけの理由で別疾患に分類しようとするならば、「病理医は臨床を知らない」と馬鹿にされても仕方がない。 一方で、消化器内科医が「どうせ治療には変わりないのだから」という理由で両者の違いを無視するならば、「医学を知らない臨床医」と揶揄されても仕方あるまい。
「組織学的な形が違う」という所見は、「その背景にある疾患の成り立ちが違う」という事実を意味している。 それならば、両者に対する理想的な治療内容は、本当は異なっていると考えるのが自然である。 たとえば、ポリープを内視鏡的に切除するにしても、それが過形成性ポリープなのか胃底腺ポリープなのかで、理想的には、切除するべき範囲が異なるであろう。 もちろん、現代医学ではその「理想的な治療内容」は未知なのであるが、それは我々の研究が足りないだけのことであり、要するに、医者の怠慢に過ぎぬ。 本当に、患者に対して最高の医療を提供したい、理想的な治療をしたい、と思うならば、 どうして、過形成性ポリープと胃底腺ポリープの違いに無頓着でいられようか。 そうした理想を求める精神、疾患の本質を追究する野心こそが、両者を別疾患として分類する原動力なのである。 この事実を、名古屋大学の某病理学教授は「臨床が病理に追いついていない」と形容した。 これは、病理学の探求こそが明日の臨床医学の発展を導くのだ、という気概と誇りの込められた言葉である。
私が「膠原病を分類したい」と言っているのは、そういう意味である。