これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
臨床医療の話である。 大学病院であれば、だいたい、どこの診療科であっても、週に 1 回程度「教授回診」のようなものがある。 つまり、診療科の責任者である教授が、全入院患者を診てまわるのである。 もちろん、普段患者をみていない教授が週に一度の回診することに、どれだけ実際上の意義があるのかはわからない。 それでも、全くみないというわけにはいかないし、責任者が顔を全くみせないとあっては、患者側も不安・不快であろう。 諸々の妥協線として生じたのが、週に 1 度の教授回診であると思われる。 市中病院であっても「部長回診」などとして、同様の催しは行われていることが多いであろう。
大学病院の場合、教授回診に際して、学生や研修医などが、その患者について簡略に説明する。 これには教育的意義があるから、それ自体は、たいへんよろしい。 ただし、患者が寝ているベッドの横で、患者が聞いている状態で、そういうプレゼンテーションを行うのは、いかがなものだろうか。
大抵の場合、患者は素人であるから、病状について医学的にあまり厳密な説明を受けていない。 しかし教授と学生あるいは研修医の間では、検査項目や所見などを巡り専門的な会話が交わされる。 患者にしてみれば、聞いたこともないような話が、自分の頭の上で飛び交うことになる。 「soluble IL-2 が 1000 以上と高値で……」「LD はそれほどでもないのですが……」「マルクでは芽球が 20 % 程度で……」などと 意味のわからない会話を聞かされ、不安にならない患者が、いるだろうか。
そういう高度に専門的で理解できない会話に加えて、不謹慎な笑いが生じることがある。 ちょっとした言い間違いや冗談に対して、その場にいた医師などが笑う、という状況である。 もちろん、その言い間違いや冗談の何がおかしいのか、患者にはわからない。 患者からすると、自分のことを話している最中に、何かよくわからない冗談で医者が笑うのだから、気分が良いはずがない。 患者に対する配慮が不足しているのであって、「患者中心の医療」などとは、到底、いえない。 どうも、そのあたりの感性が鈍い医師や看護師が、北陸医大 (仮) には少なくないように思われることは遺憾である。
その点、名古屋大学では、多少の配慮がなされていたように思う。 教授に対して学生や研修医などが患者の説明を行う際には、それが患者の耳に入らないように、病室の外の廊下で行う診療科が多かったように思う。 もちろん、他の患者の耳に入ったら別の問題が生じるから、周囲に注意を払いつつ、小声で会話していた。 また、上述のような不謹慎な笑いも少なく、比較的、規律が整っていたように思われる。
ついでに言えば、名古屋大学では、少なくとも私が入学した時点では既に、患者から職員個人に対する謝礼は断わる旨の掲示が院内随所になされていた。 北陸医大の場合、これまで、そうした「個人的な謝礼」を明示的に禁止してはいなかった。 常識的に考えれば、医師等が患者から個人的に謝礼を受け取ることは非道徳なのであるが、これを明確に禁止する規則は、私の知る限り、我が大学には存在しなかった。 それが今年度に入って、ようやく、職員個人への謝礼を断わる旨のポスターが院内に掲示された。 今頃になってようやく、という時点で、倫理の面において我が大学は名古屋大学よりも大きく遅れていると言わざるを得ない。 しかし、それでも少しは前進しているのだから、この大学には未来があるといえよう。