これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/06/13 病院長あいさつ

だいたい、どこの病院であっても、公式ウェブサイト上に「病院長あいさつ」のような文章が掲載されている。 我が北陸医大 (仮) も例外ではない。 病院長センセイの写真と共に「北陸医大の特徴」として各診療科等の簡潔な紹介が載せられている。 そして「以上が私達、北陸医大附属病院のスタッフです。もちろん多くの優秀な看護師、薬剤師、コメディカルスタッフの協力なくしては、チーム医療はできません。云々」 と締めくくられている。 たぶん、病院長に悪意はないのだと思う。しかし、非常に問題のある文章であると言わざるを得ない。

まず第一に、この書き方では、チーム医療というものが「医師を中心に、看護師や薬剤師等が協力することによって為されるもの」というようにみえる。 実情がどうであれ、少なくとも建前上は、チーム医療というものは医師ではなく患者を中心として、医師や看護師等は (権限の大小に差はあるものの) 対等な立場でチームを形成して行う、ということになっている。 「看護師、薬剤師、コメディカルスタッフの協力なくしては」という部分に、医師中心の考え方が滲み出てしまっているのである。

第二に「以上が私達、北陸医大病院のスタッフです。」というのも、まずい。 この「あいさつ」では、臨床診療科の他には、臨床検査部など一部の部門が紹介されているのみであって、たとえば薬剤部や栄養部などには、触れられていない。 と、いうことは、この「あいさつ」の書き方では、薬剤部所属の薬剤師や、栄養部の管理栄養士、あるいは院内の衛生を守る清掃員、 病院運営を担う事務職員などは、病院スタッフに含まれないことになる。 また、病理部にも言及されていないので、我々病理医も「北陸医大病院のスタッフ」に含まれないようである。 病院長は、そういう目で、我々をみていたのか。 「うっかりしていた」で済む話ではない。

昨年度、私は、この「あいさつ」に腹を立て、抗議しようかと思ったこともある。が、やめた。 我々病理医は、もとより日陰の存在である。 「8 割方、合っている」という診断に満足せず、残りの 2 割、つまり「誤診しても仕方ない」と臨床医が諦めた少数の患者を守るのが、病理診断である。 多くの患者から感謝され、世間からチヤホヤされる仕事よりも、誰にも知られずに最後の一線を守る任務を選んだのが我々である。 だから、病院の看板として脚光を浴びる内科医や外科医と一緒にいるよりも、病院長から忘れられた薬剤師や栄養士、清掃員、事務職員などと共に歩む方が、我々にはふさわしい。


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