これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
本日と明日、北陸医大 (仮) では「緩和ケア研修会」が行われており、私も参加している。 研修医も含め、全ての医師に参加が求められているのだが、私は昨年度、有志勉強会などの都合により受講しなかった。 すると今年の春、「もし参加しなければ、今後の研修に支障が生じるかもしれない」という強い文句で、当局から参加を要請されたのである。 誤解を招くと困るので弁明しておくが、もともと緩和医療は関心のある分野である。 昨年度の講習会に参加しなかったのは、本当に、勉強会と日程の調整がつかなかったからに過ぎない。
緩和ケアの定義を巡る問題については、別の機会に書くことにしよう。 また、オピオイドの副作用としての眠気に対し、アンフェタミンなどの覚醒剤を併用するのはどうか、という提案については 3 年ほど前に書いた。 この問題については、その後、特に文献調べもしていないので、これも別の機会に書くことにしよう。 今回の話題は、オピオイドの副作用としての依存についてである。
オピオイドというのは、要するに、いわゆる麻薬であるから、これを鎮痛目的で多用すれば依存を来すのではないか、と懸念するのは自然なことである。 オピオイドを適切に使用した場合、有害性よりも有益性の方が遥かに勝る、という点については、ほとんど全ての医師が同意するであろう。 しかし、鎮痛目的のオピオイドがオピオイド依存、俗に言う薬物中毒を引き起こすリスクについては、見解がわかれるようである。
これは日本に限ったことではなく、米国においても、オピオイド濫用の背景に、医師により処方された医療用麻薬の存在を指摘する意見がある。 週刊 The New England Journal of Medicine の最近の記事でいえば、2 月 16 日号 (N. Engl. J. Med. 376, 663-673 (2017).) には 救急外来でのオピオイド処方がオピオイド依存のリスクになっている可能性を指摘する報告が掲載された。 しかし、これに対しては反論 (N. Engl. J. Med. 376, 1895-1896 (2017).) もあり、明確な決着はついていない。 また 4 月 20 日号の Perspective 欄 (N. Engl. J. Med. 376, 1502-1504 (2017).) でも、医療用オピオイドと濫用との関係の曖昧さが述べられている。
そういった事情を踏まえて、 本日の研修会の最後に私は「特に米国では、オピオイド濫用の背景に不適切な医療用オピオイドの使用が存在すると考えられており、 オピオイドの安全性を過度に強調するのは、いかがなものかとも思われる。」という趣旨の発言をした。 しかし、その意図は司会者には明確に伝わらなかったようであり、「適切に処方することが重要であろう。」という方向でまとめられた。 もちろん、私としては「その『適切に処方する』というのが極めて難しいのではないか」と言いたかったのである。 とはいえ、敢えて議論を引っぱって抵抗することが有益とは思われないから私も引っこんだが、いささか遺憾ではあった。
ところが後で別の研修医から教えられたところによると、研修会に参加した年長の医師の一人は、その司会者のまとめ方に対して「そういう話ではないだろう」と呟いていたらしい。 やはり理解してくれる人は存在するのだ、と、私は嬉しくなった。 そういう人々に支えられて、私は、日々の研修に励んでいるのである。