これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/05/14 我が母校から医学部へ進学する者について

5 月上旬の連休に、両親に会った。 私が齢 30 を過ぎても職に就かず、ブラブラと学問ばかりして過ごすのを黙って許し、経済的に支え続けてくれた、あの偉大な両親に、である。 なお、我が両親は私と同様、もともと医者嫌いである。 医療機関を受診するのが嫌い、という意味ではなく、医者という人種の傲慢なることを軽蔑している、という意味である。

たまたま実家に置いてあった、週刊ダイアモンドだか何だかの低俗な雑誌に、医学部特集が掲載されていた。 在籍する医師一人あたりの論文数が多い大学はどこだ、とか、入試の偏差値がどうだ、とか、大学としての格が云々とか、くだらぬ話ばかりが書かれていた。 ただ、少しばかり面白かったのは、高等学校別の医学部進学者数を比較した記事である。

その記事によれば、我が母校、麻布高等学校の一学年 300 名のうち、今年の医学部合格者は浪人勢を含め 69 名であったらしい。 もちろん我が母校は、こうした卒業生の進路についてマスコミ等からの問い合わせには回答していないはずだから、この数字は、あまり正確なものではないはずである。 一方、詳しい数字は記憶していないが、開成高等学校では一学年 400 人のうち 4 割程度、灘高等学校に至っては 6 割以上が医学部に行くらしいから、 麻布の 300 人中 2 割強、というのは、少ない。たいへん、よろしい。

卒業生の多くが医学部に進むような高校というのは、正直に申し上げて、まっとうな教育を行っているとは思われない。 社会科学まで含めた科学全般のこと、社会や政治・経済のこと、文化・教養のことなどについて、広い興味と見識を育むような教育を受けたならば、 卒業生の過半数が医者になる、などという事態には至らぬはずである。 我が母校の素晴らしいところは、こうした進学実績などの「わかりやすい指標」に捉われることなく、人として、科学者・文化人として、 生涯にわたり自己研鑽できるような人材を育んでいる点にある。

麻布から医学部に進んだ者についていえば、進学先の大学にも、なかなか、趣きがある。 京都大学医学部には 3 名が合格したのに対し、東京大学理科 III 類には 1 名だけであったらしい。 これは「麻布の連中の頭脳が東大レベルに達していない」ということではなく「麻布の連中は東大を避ける」というのが真相であろう。 ただでさえ「医学部に行く」ということ自体が恥ずかしいのに、東大理 III になど進んでは、本当に何も考えずに偏差値だけで進路を決めたかのように思われかねない。 麻布生には、それを耐え難い屈辱と考える者が少なくないのであろう。 その証拠に、防衛医科大学校には 8 人程度が合格したらしい。 どうせ医者になるなら、防衛医大に行くぐらいでなくては面白くない、と考える者が少なくないのであろう。

麻布高校というのは、そういうところである。我々の真価は、我々のみが知っている。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional