これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
溶血性尿毒症症候群 (Hemolytic Uremic Syndrome; HUS) と血栓性血小板減少症 (Thrombotic ThrombocytoPenia; TTP) については 半年ほど前に書いた。 この両者は、疾患概念に曖昧さはあるものの、血栓性微小血管障害 (Thrombotic MicroAngiopathy; TMA) と総称される血管障害に含まれる。 この TMA について、近頃、少しだけ勉強したので、ここに記載しておこう。
ウェブ上で検索を行うと、HUS と TTP の鑑別などについて、ガイドライン的な内容を説明しているサイトは多い。 しかし遺憾ながら、そうした記事の多くは表面的な分類を述べているだけで、病理学的本態に迫っておらず、医学的に妥当であるとは言い難いものが多い。
歴史的には、HUS も TTP も、症候群として報告されてきたのであって、その発症機序について明らかにされ始めたのは 21 世紀に入ってからである。 現在のところ、HUS は血管内皮細胞傷害などを背景に補体が異常活性化することで生じる血栓形成傾向、と理解されている。 これに対し TTP は、ADAMTS13 の機能障害により、一般には内皮細胞傷害を伴わずに、血小板の凝集が亢進することで血栓形成傾向を来すもの、とされる。 ただし理論上は、ADAMTS13 の機能障害も血管内皮細胞傷害も伴わずに、何か別の機序により血小板凝集が亢進することで生じる TMA も存在するはずである。 上述の基準で分類すれば、こうした TMA は HUS にも TTP にも該当しない、ということになるのだが、これを TTP と区別することに 何か臨床的に重大な意義があるようには思われない。 たぶん、そうした事情を念頭に、この業界の識者の間では近年、HUS とか TTP とかいう分類に拘らずに TMA という総称を好んで用いる傾向があるように思われる。 実際、疾患概念が多少なりとも明らかにされつつある現在では、HUS とか TTP とかいう、病態よりも症候を重視した古典的分類に拘泥することは、有益とは思われない。
臨床病理学的な観点からすれば、TMA を分類するならば、まず抗体介在性か否かで大別するのが有益である。 「抗体介在性 TMA」の代表は、古典的分類における TTP の典型例であって、すなわち、抗 ADAMTS13 自己抗体によって血栓形成が亢進するものである。 この場合、自己抗体を除去する目的での血漿交換療法が有益である。 もちろん、抗 ADAMTS13 抗体以外の自己抗体によって惹起される TMA も「抗体介在性 TMA」に含めるべきである。
これに対し「抗体非介在性 TMA」の代表は、古典的分類における HUS であって、いわゆる typical HUS と atypical HUS を区別する必要はないと考える。 これらは血管内皮細胞傷害を背景に補体の異常活性化などを来して生じる TMA であって、基本的には血漿交換療法は効果が乏しい。 たとえば悪性腫瘍を基礎として血栓形成傾向を来し播種性血管内凝固 (Disseminated Intravascular Coagulation; DIC) を来す場合も、基本的には、これに含まれるであろう。
たぶん、このあたりの問題をまとめたレビューがBlood誌に掲載されたのではないかと思うのだが、 遺憾ながら我が北陸医大は同誌を購読していないので、私は、まだこれを読んでいない。