これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
朝日新聞の報道などによると、 着床前スクリーニングを「不適切に」実施した医師が、日本産科婦人科学会から懲戒処分を受けたらしい。
着床前スクリーニングというのは、体外受精で作った受精卵を細胞分裂させ、増えた細胞の一つを取り出して染色体を調べる検査である。 検査した細胞と他の細胞との間に染色体構造の違いがあるかもしれない等の理由から 100 % ではないが、 ダウン症候群などの先天的染色体異常を、かなりの信頼性で検出することができる。 平たくいえば、染色体異常を持つ子供が生まれることを予防できるのである。
価値観は多様であるべきだから、学会が言うように「命の選別につながる」として、この技術を使いたくないと思う両親もいて良い。 しかし、私としては、命を選別することの何が悪いのか理解できない。 だいたい、命を選別することが悪いなら、カトリックの連中が主張するように、避妊も禁止し、全てを天に任せるべきではないのか。 むしろ、特に高齢出産の場合などに、先天性染色体異常の子を育てる負担を避けたいと思うのは当然のことである。 個人的には、これは優れた技術であって、積極的に推進すべきであると思う。
私と同じように考える人は世間に少なくないようであり、また、産科医の中にも稀ではないようである。 この処分された大谷医師も、確固たる信念に基づいて学会の指針を無視したらしい。 学会から始末書の提出を求められた際にも、公然と無視したとのことであり、また、今後も着床前スクリーニングを続ける方針らしい。
だいたい学会などというものは、ただの社団法人に過ぎず、倫理などの問題について決定や規制をする権限は、持っていない。 ただ、医者という人種は権威に弱く、組織に従順な連中が多いから、学会に逆らう勇気がないだけのことである。 しかし真に自立し、自己の良心と学識に基づいて診療する医師であれば、学会が定めた意味不明で情緒的な指針などに縛られず、正しいと信じる診療を行うことができる。
もし着床前スクリーニングが社会に有害な技術だというのなら、学会の見解ではなく、法令によって規制せねばならない。 「学会で決まっているから」などと着床前スクリーニングを自粛するのは、むしろ、医者としての判断力を欠いた無責任な態度であると言わざるを得ない。