これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/06/23 講演会

過日、北陸医大 (仮) の某診療科に関係する某講演会に参加した。 臨床診療科の場合、この種の講演会は形式的には製薬会社が主催していることが多い。 参加費はもちろん無料であり、交通費としてタクシー代を製薬会社が負担し、さらに講演会の後には立食形式の「情報交換会」が開催された。 はたして、医者と製薬会社の関係として、これは適切であるかどうか。 この点について、医者の常識と世間の常識との間には、重大な乖離があるように思われる。

我が北陸医大には「役職員倫理規則」があるが、私が読む限り、医者にとって製薬会社は 規則上の「利害関係者」に該当せず、上述のような関係を明確には禁止されていないように思われる。 ただし、この規則には「役職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、 その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない。」という規定がある。 私の感覚からすれば、医者と製薬会社の上述のような関係は「社会通念上相当と認められる程度を超えて」いるように思われる。

今度、大学当局に問い合わせてみることにしよう。 どういう返答が返ってくるか、北陸医大の良識が試される。

さて、話は講演会である。 率直に申し上げて、この講演会の内容は、いささか残念であった。 「臨床で役立つ」ということに主眼を置き、ガイドラインの記載や、演者の経験、統計報告などにばかり重点がおかれ、学術的な要素が乏しかったからである。 過去にも何度も書いているが、統計報告自体は、学術的とはいえない。 そこに理論的考察が加えられて、はじめて、学問といえるのである。

ところで、近年、少なくとも医学の分野においては、発表に際して利益相反 (Conflict of Interest; COI) について明言することが求められる風潮がある。 つまり、演者が自分の所属機関以外の企業等から何らかの金銭的報酬などを受け取っている場合に、それを明示せねばならない、というのである。 なぜ、それが必要か、ということは、言うまでもあるまい。

今回の講演の演者は、いくつかの企業等から講演料を受け取っていたようである。 しかし、その COI を示すスライドは、ほんの 2-3 秒しか表示せず、どこから金を貰っているのか口頭で述べることもしなかった。 つまり、形式的に COI のスライドを作っただけで、実際上は、COI を伏せて講演を行ったわけである。 そういう手口を使う者は、遺憾ながら稀ではない。もちろん、まともな科学者とは、いえない。

こういう講演会などで、質疑応答の際、質問者が自身の所属と名を述べた上で「すばらしいご講演、ありがとうございました」などと述べてから質問に入ることがある。 実は私も、過去に何度か、そういう枕詞を置いてから質問したことがあるが、最近は、やっていない。 無意味で、時間の無駄だからである。 もちろん、臨床医療にはびこる因習に戦いを挑む以上、エラいセンセイから睨まれる恐れはある。 しかし、まぁ、私なら戦えるだろう。

私が紆余曲折の末に医者になることを決めた時、祖父は「まっすぐ道を進んできた医者より、そういう (回り道をしてきた) 医者の方が、私は好きだ。」 というようなことを言ったらしい。 祖父の真意がどこにあったのかは、知らぬ。 しかし、もし医学界の因習に私が屈したならば、おそらく、祖父は落胆するであろう。


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