これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/09/13 医療の快感

しばらく更新が滞ったのは、夏休みを取得していたためである。 我が北陸医大 (仮) では、研修医には 6 日間の夏期休暇が与えられる。 6 月から 12 月の間で、研修中の診療科と相談の上、自由に取ることができる。連続して休んでも良いし、分割して休んでも良い。 先月に 2 日間の休暇を取得した他、一昨日から本日までの 3 日間も休暇とした。 休暇中には東京に行き、某大学医学部を偵察するなどしたのだが、その話は別の機会に書くことにしよう。

さて、私は臨床医ではないが、さぞ臨床医療行為は快感であろう、とは思う。 悩み苦しむ患者が、助けを求めて自分のところにやってくるのである。 そして基本的には、患者は、自分の指示に忠実に従う。 場合によっては、裸になれ、とか、陰部をみせろ、とか、写真に撮らせろ、とか言うし、患者はそれに黙って従う。 私自身、20 代のうら若い女性と密室で二人きりになって「腋をみせてくれ、写真に撮らせてくれ」と言う、などという恐怖体験をしたことがある。 もちろん、診療にあたり必要な記録を残すためである。 しかし、後で患者から「猥褻なことをされた」と訴えられた場合、弁明が困難になるので、本来、こういう場合には女性看護師などに同伴してもらうのが正しい。 しかし、この時は人員が足りず、やむなく私が単独で撮影を行ったのである。 二度と、あんなことはしたくない。

話を戻すが、医者は様々な薬物を使用して、あるいは外科的な手技によって、患者の身体を操作することができる。 患者の体を、自分が支配しているのである。 そして患者は、感謝を述べ、金を払って去って行く。 これに快感を覚えないとすれば、むしろ、その方が異常である。

時に、外科医志望の学生や研修医の中に「手術は楽しいが、周術期管理は面倒くさい」などと言う者がいる。 これは言語道断である。上述のような快感に呑まれ、医道を見失ったと言わざるを得ない。 本当に患者のことを思い、治療のことを第一に考えているならば、むしろ周術期管理こそが大事だからである。 実際、まともな外科医は、手術手技と同等以上に周術期管理を重視している。

上述のような快感が日常であるが故に、医者の多くは、程度の差こそあれ、人としての基本的なことを忘れていく。 たとえば、患者に対する言葉遣いである。まともに敬語を使えない医者は多い。 年配の患者に対し「痛いの?」とか「座って」とか、無礼な口のきき方をする者は多い。 ろくな経験も技術も学識もない研修医でさえ、自分が患者より偉いと勘違いしているのか、ぞんざいな話し方をする者が少なくない。 少なくとも医学科では、そういう話し方を戒める教育がなされているはずなのに、である。

私は、そうなりたくないので、相手が嬰児であったとしても敬語で話すことを徹底している。 麻酔科研修中などは、全身麻酔で意識のない患者相手でさえ、針を刺す時に「では、ちょっとチクリとします。いきます。いち、にの、さん」などと声をかけていた。 もちろん気管挿管の際には、意識のない相手に「ちょっと、お口を失礼します。大きくあけます。」などと言っていた。 これに対し「すごく丁寧だな」と評する指導医はいても、「言わんでよろしい」などと馬鹿にする者はいなかった。

医者の無礼な態度に対し、内心で不満を抱えている患者は多いであろう。 ただ、患者は大抵、オトナなので、その不満を表明する者は少ない。医者の機嫌を損ね、自分に不利益が生じることを恐れているからである。 実際、そういう苦情を堂々と述べた患者が「モンスターペイシエント」扱いされている場面を、私はみたことがある。

この「医者の無礼な態度」について、たいへん教訓的な場面に遭遇したことがある。 次回、これについて書こう。


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