これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/08/25 菌状息肉症

菌状息肉症というのは、T 細胞性リンパ腫の一種である。 リンパ腫というのは、白血球のうち「リンパ球」と称される細胞が異常に増殖し、かつ腫瘤を形成する疾患の総称である。 リンパ球は、B 細胞、T 細胞、NK 細胞などに分類されるが、このうち T 細胞系の細胞が腫瘍化したのが、いわゆる T 細胞性リンパ腫である。 リンパ腫の多くは B 細胞性リンパ腫であり、比較的よく研究されているのだが、T 細胞性リンパ腫の詳細はよく知られていない。 T 細胞性リンパ腫は、さらにいくつかに分類されるが、有名なのは Adult T-Cell Leukemia Virus (ATLV) によって生じる成人 T 細胞リンパ腫 (ATL) と菌状息肉症である。 あるいは、少しよく勉強した学生であれば、他に血管免疫芽球性 T 細胞リンパ腫 (AngioImmunoblastic T-cell Lymphoma; AITL) や Sezary 病も挙げるかもしれぬ。

菌状息肉症の特徴は、無治療であっても、症状が出てから死に至るまでの期間が非常に長いことであって、20 年以上かかることも珍しくない。 初期には、なぜか腫瘍細胞は皮膚、特に表皮に集まり、内臓障害を来さない。理由は、よくわからない。

さて、T 細胞にもイロイロと種類があるらしいことが近年では知られているが、この菌状息肉症の腫瘍細胞は、どういう種類の T 細胞であろうか。 少しだけ勉強したモハン的な学生ならば「CD4 陽性 T 細胞」と即答するであろう。が、それは誤りである。 確かに、菌状息肉症の腫瘍細胞は「典型的には」CD4 陽性細胞なのだが、一部には「CD4 陰性 CD8 陽性」の症例が存在するらしい。 皮膚科学の名著 Griffiths C et al., Rook's Textbook of Dermatology, 9th Ed. (Wiley Blackwell; 2016). によれば、特に若年発症例において、その頻度が高いらしい。

問題は、ここからである。 オタク向け雑誌である月刊「病理と臨床」2017 年 8 月号の「CPC 解説」のコーナーは、菌状息肉症の症例であった。 患者は 20 歳時に菌状息肉症と診断されたのだが、その際の生検では腫瘍細胞は CD4 陽性 CD8 陰性であった。 ところが 43 歳で死亡した後の病理解剖では、腫瘍細胞は CD4 陰性 CD8 陽性だったのである。 何が起こったのか。

実は菌状息肉症においては、当初は CD4 陽性であった腫瘍細胞が、やがて CD8 陽性に変化する例の存在することがある、と報告されている。 たとえば Brit. J. Dermatol. 175, 821-838 (2016). で報告されているのは、次のような症例である。 当初は紅斑を主体とする皮疹がみられ、腫瘍細胞は CD4 陽性であった。 約 20 年後に潰瘍を伴う腫瘤が新規に出現し、こちらは CD8 陽性細胞の腫瘍であった。 両者の腫瘍細胞について TCR (T 細胞受容体) の遺伝子再構成を調べてみると、どうやら同一の再構成を有しているようであった。

この現象を、どう考えるか。 長くなってきたので、続きは次回にしよう。

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