これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/08/02 MCV 偽低値

昨晩は、北陸の某大河で行われた花火大会に行った。 家族連れやアベックの姿が多かったが、私と同様に単身の来訪者も少なくなかった。 世間には一人で花火大会に行くことに対して抵抗を感じる者もいるようだが、 世の中には一人で花火大会を開催する猛者も存在するぐらいなので、気にすることはない。

さて、血球自動算定機では、血液検体を低張な溶液で希釈し、赤血球を膨化させてから MCV などを測定するのが普通である。 低ナトリウム血症のために低張な検体の場合、低張な溶液で希釈しても、赤血球はあまり膨化しない。 このため、測定上は MCV が小さいようにみえる (Am. J. Hematol. 12, 383-389 (1982).; Medical Technology 30, 1246-1247 (2002).; Scand. J. Clin. Lab. Invest. 75, 588-594 (2015).) しかし、これは検査の過程における膨化の程度が小さいだけであって、もともと赤血球が小さかったわけではない。 すなわち、MCV が誤って小さく測定されてしまうのであって、偽低値なのである。 臨床的なことでいえば、低ナトリウム血症が背景にある場合、正球性貧血を小球性と、あるいは大球性貧血を正球性と、誤診する恐れがある。

ただし、MCV の値だけをみて短絡的に診断するのではなく、検査値を注意深く読んでいる医者ならば、このような誤診は生じない。 偽低値が生じる機序を考えれば、MCH (Mean Corpuscular Haemoglobin) には誤差は生じない。 従って、MCV の偽低値に対応して、MCHC (Mean Corpuscular Haemoglobin Concentration) は偽高値を示す。 一方、世の中には、MCHC が増大する疾患というものは、ほとんど存在しないと考えられている。 臨床的に MCHC 異常高値となる原因として思い浮かぶのは、溶血のためにヘモグロビンが赤血球外に存在している、などの事情による測定エラーぐらいである

以上のことをふまえると、低ナトリウム血症に MCV 異常低値と MCHC 異常高値が合併した場合、MCV の偽低値を疑うべきであって、安易に「小球性貧血」などと診断してはいけない。 もし諸君が臨床実習や初期研修などで低ナトリウム血症に貧血を合併した患者をみかけた場合、 このことを思い出し「これは偽低値ですよ」と指導医に教えてさしあげると良い。


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