これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
低ナトリウム血症というのは、血漿中のナトリウム濃度が異常に低くなっている状態のことをいう。 一方、MCV (Mean Corpuscular Volume) というのは、赤血球の大きさの平均のことをいう。 基本的には、低ナトリウム血症と MCV の間には、何の関係もない。
例外は、何らかの事情で急性に低ナトリウム血症が生じた場合である。 この場合、血漿の浸透圧は低下するが、赤血球内にはもともとナトリウムが乏しいのだから、赤血球内の浸透圧はあまり変わらない。 そのため、赤血球内外の浸透圧差によって水が赤血球内に移行する。結果として MCV が大きくなるのである。
一方、慢性低ナトリウム血漿においては、著明な MCV の変化はみられないようである。 MEDSi 『体液異常と腎臓の病態生理』第 3 版によれば、通常の細胞では、細胞外液の浸透圧に応じてアミノ酸などの浸透圧調節物質の量を変え、 細胞内の浸透圧を調節する機能があるらしい。 この機能を赤血球も有しているのか、あるいは赤芽球に限られるのかは、よくわからない。
いずれにせよ、低ナトリウム血症においては、MCV は大きくなることはあっても、小さくなるはずはない、といえる。
ところが臨床的には、低ナトリウム血症において MCV が高値を示す例がある。 私が 5 年生の時、初めて病棟で担当した患者も、そうであった。入院中に低ナトリウム血症が進行し、それに伴って MCV の値が小さくなっていったのである。 当時の私は、この MCV 低値の機序を合理的に説明することができなかった。 指導医に問うてみたところ、「気にしなくて良い」と言われた。 そこで私は「この指導医は、ヘッポコである」と認定し、密かに某教授に相談してみたのだが、教授も、わからなかった。
今ならわかるのだが、この MCV の値は、偽低値である。 つまり、本当の MCV は小さくないのだが、検査上の誤差として、小さな値が出てしまうのである。
この偽低値が生じる機序について書きたいのだが、あいにく、もうすぐ帰りのバスが来てしまう。 今晩は、自宅の近くで県下最大規模の花火大会が行われるので、それを眺めに行くため、病院に泊まらず、自宅に帰らねばならぬ。