これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/07/30 いわゆる SAPHO 症候群

某内科の研修において、いわゆる SAPHO 症候群について調べる機会があった。 それなりに頭を悩ませ、労力を費して調べた内容なので、ここに記録しておこう。

SAPHO 症候群というのは、その筋では有名らしいのだが、いまひとつ、概念がはっきりしない。 臨床的には Benhamou の提唱した基準 (Clin. Exp. Rheumatol. 6, 109-112 (1988).) を用いて診断されることが多い。

Benhamou らは、それまで別個の症候群として扱われていた 1) 掌蹠膿疱症; 2) Acne Conglobata; 3) Acne Fulminans; 4) Hidrosadenitis Supprativa、において、 類似の関節病変を生じることがある、と主張した。 すなわち、胸骨、第一肋骨、鎖骨の過形成 (Sterno-Costo-Clavicular Hyperostosis; SCCH) や、慢性再発性多巣性骨髄炎 (Chronic Recurrent Multifocal Osteomyelitis; CRMO) を特徴とする、原因の明らかではない関節病変を Synovitis-Acne-Pustulosis-Hyperostosis-Osteomyelitis (SAPHO) 症候群と総称したのである。 ただし、これらの 4 症候群における関節病変が類似の機序によると考える根拠は示されていない。 また、Benhamou らの基準の臨床的妥当性を検証した報告もなく、臨床的有用性は不明であることに注意を要する (Firestein GS et al., Kelly & Firesten's Textbook of Rheumatology, 10th Ed., (Elsevier; 2017).)。

SAPHO 症候群は、しばしば IgA 血管炎に合併することが古くから指摘されている (日本内科学会雑誌 82, 112-114 (1993).)。 さらに、SAPHO 症候群と IgA 腎症との合併例も報告されており (CEN Case Rep. 5, 26-30 (2016).; Clin. Exp. Nephrol. 11, 97-101 (2007).; Clin. Nephrol. 44, 64-68 (1995).)、 さらには SAPHO 症候群に対し扁桃摘出が有効であるとする意見もある (北海道医学雑誌 89, 17-19 (2014).)。 なお、IgA 腎症に対する扁桃摘出は有効であると日本では信じられているが、世界的には認められていない。 私自身は、これはプラセボ効果ではないかと考えている

話を元に戻すが、SAPHO 症候群については、IgA 血管炎以外の血管炎との合併例も知られている (Schweiz. Med. Wschr. 118, 1803-1807 (1988). [in German]; Dermatol. 186, 213-216 (1993).; Clin. Radiol. 50, 578-580 (1995).; Mod. Rheumatol. 18, 181-183 (2008).)が、 ANCA 関連血管炎との合併例は報告されていないようである。

以上をまとめると、次のようになる。 いわゆる SAPHO 症候群とは、特発性 SCCH を呈する病態を総称したものであり、その中には血管炎を背景として生じる一群がある。 この血管炎は、通常は免疫複合体介在性であり、ANCA 関連 SCCH と呼ぶべき病態が存在するかどうかは明らかではない。

ところで、文献を検索していると、時に、ドイツ語やフランス語で書かれた重要な参考文献に遭遇することがある。 上で参考文献に挙げた Schwiz. Med. Wschr. も、その一例であるが、私は、日本語と英語は一応できるが、ドイツ語は読めない。 そこで、個人的には Google は嫌いなのだが、Google 翻訳を活用している。 機械翻訳は、ヨーロッパ諸言語から日本語への翻訳の質は低いものの、ドイツ語やフランス語から英語への翻訳については優秀であるので、活用すると良い。


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