これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/07/22 服薬アドヒアランス

アドヒアランスとは、決められた通りの治療を受けることをいう。薬についていえば、定められたスケジュールに従って服薬することをいう。 以前はコンプライアンスという語が用いられていたが、これは「遵守」という意味合いであり、 近年では「治療への参加」という意味でアドヒアランスという語が好まれる。

患者の中には、服薬アドヒアランスの低い者がいる。 認知機能の低下などによって薬を飲み忘れる例もあるが、有害事象が不快なので意図的に薬を飲まない例もある。 適切に服薬せねば時には生命にかかわるような薬であったとしても、また、そのことを患者は一応理解していたとしても、それでも、飲まずに薬を捨てる患者もいる。

遺憾なことに、医者の中には、意図的に薬を飲まない患者に対し不快感を露にする者がいる。 「きちんと決められた通りに薬を飲まないなら治療できない」などと、患者を脅す者もいる。 想像力が乏しいと言わざるを得ない。

そもそも、患者は医師の指示に従わねばならない、という発想が間違っている。 もちろん、院内の秩序を守るために必要な範囲においては、患者には病院職員の指示に従う義務がある。 しかし治療内容に関しては、患者には、麻薬の使用方法など一部の例外を除き、医師の指示に従う義務はない。

患者が処方された通りに薬を飲まないなら、医者は、まず、患者が指示に従わない理由を知ろうとしなければならない。 まともな認知能力を有する患者であれば、薬を正しく飲まないことには、相当の理由があるはずだからである。 患者が何かを誤解しているなら、正しい情報を提供するべきである。 また、患者が物事を正しく認識した上で服薬を嫌がるなら、患者が納得できる対応を一緒に模索するのが医者の仕事である。 それを、患者の訴えも聴かずに、叱りつけることで無理矢理、言うことをきかせようとするのは、まともな医者のやることではない。

こうした問題は、服薬だけのことではない。 たとえば手術目的で入院した患者が「やっぱり手術は嫌だ」と言い始めた時、多くの外科医は、何とか説得しようとするのではないか。 しかし本来ならば、説得を試みる前に、なぜ手術が嫌なのかを、しっかりと聴かねばならない。 それをせずに説得しようとすれば、医者と患者の間の溝は深まるばかりである。

諸君も医学科 1 年生や 2 年生の頃は、以上のようなことを、あたりまえに理解していたのではないか。 それが、学年が進み、あるいは研修医になり、医療の現場に参加し、看護師などから「センセイ」と呼ばれるようになって、何かを勘違いしたのであろう。 多くの患者は医者の言うことに素直に従ってくれるので、まるで自分がエラくなったかのように思うのである。 そこで自分達の言うことに簡単に従わない患者が現れると、生意気だ、とばかりに、「それなら治療できない。帰れ。」などと言い出すのである。


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