これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/10/26 医事訴訟における診療録の真実性

私は医事訴訟の専門家ではないが、法医学には、平均的な学生や医師よりは強い関心を持っていると思う。

日本においては、医事訴訟は、1990 年代後半から世間の注目を集めており、裁判所の判断も大きく変遷してきてはいる。 以前は、医事訴訟は病院側が圧倒的有利であるとされていたが、近年では、病院や医師の過失を認める判決もそれなりに多い。 そのため、大抵の医師は、医師賠償責任保険に加入しているものと思われる。もちろん、私も加入している。

訴訟で問題になるのは、多くの場合、医師や病院の過失責任である。 当然に注意して気づくべき点を気づかなかった、というのが医師の過失責任であるが、 それが「当然に注意して気づくべきであった」のか「気づかなくてもやむを得ない」のかが、争点になる。 あるいは、事前に患者が同意していたか、インフォームドコンセントがあったかどうか、が問題になることも多い。 こうした訴訟においては診療録 (カルテ) の記載が重要な証拠になる。

診療録に何も記載がなければ、医師は患者をよくみていなかったのではないか、異状をみおとしていたのではないか、との心証を裁判官に与える。 また、患者に説明して同意を得た旨の記載がなければ、説明責任を果たしていなかったのではないか、と疑われる。 これらの場合、医師側の責任が認められ、賠償せよ、というような話になる。 だから、自分の身を守るためにもカルテはキチンと書け、と、我々は病院当局から厳しく指導されているのだが、遺憾なことに、杜撰なカルテを記載する医師は稀ではない。

現時点においては、医事訴訟において、カルテの記載内容が真実かどうか、という点が争点になることは少ないようである。 医師は社会的信用が高く、虚偽の事実を診療録に記載するはずがない、というような前提で物事は動いているようである。

しかし、医師であれば誰でも知っているように、カルテの記載内容は、しばしば、事実に反する。 特にインフォームドコンセントに関しては、キチンと説明せず、巧みな話術で患者や家族に「はい」と言わせただけなのに 「説明して理解と同意を得た」などと記載されることは多い。 また、患者とトラブルになった場合に、医師側に都合が良いように事実を改変してカルテに記載することも、遺憾ながら稀ではない。 私は実際に、複数の医療機関において、そうした事実に反するカルテ記載が行われたのをみたことがある。 こうした現状を、はたして、司法は理解しているのだろうか。

こうした不正行為は、いくら法や規則で縛ったところで、根絶することは難しい。 最終的には、医師の倫理観に頼らざるを得ない。 ところが実際には、道徳観念を欠く医者も少なくないから、哀れな患者は、そうした医者の餌食となる。

時々、患者側が医者などの対応を動画などで撮影し、その不適切なる様がインターネット上で広まり、問題となることがある。 個人的には、そういうことは、積極的に行うべきであると思う。 動画の撮影は容易ではないかもしれないが、録音ぐらいなら、隠し録りも簡単である。

遺憾ながら、患者は、自分の身を、自分の手で、悪しき医者から守らねばならないのが日本医療の現状なのである。


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