これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
今月の前半にお世話になった、某小規模病院でのことである。 私は内科やを中心とする診療の見学や、非医師の医療職についてシャドーイングを行ったりしたのだが、一度だけ、外科手術にも入った。 その時、某大学から非常勤医として来ている医師と話をする機会があった。
外科指導医は、その非常勤医に対し、私のことを「この病理志望の研修医の愛読書は The New England Journal of Medicine である」と紹介した。 愛読書かどうかは知らぬが、まぁ、定期購読しているのは事実である。 すると、その非常勤医は「あれ、読んで面白いかね?」と言った。 臨床医学雑誌として世界一のインパクトファクターを誇る天下の The New England Journal of Medicine を指して、あんなもの、つまらないではないか、と述べたのである。
私はマスクの下でニヤリとして「正直に言って、original article は、つまらんのですがね。Review 記事などは面白いですよ。」と答えた。
この週刊誌を普段は眺めない人には、我々の会話は理解し難いかもしれぬ。 この雑誌は、確かに有名ではあるのだが、original article として掲載されている論文のほとんどは、臨床試験の結果報告である。 「こういう試験を行ったら、こういう結果になりました」というだけの内容であって、読んでも、ちっとも興奮しないのである。 まぁ、昨今の流行からいって、こういう論文は引用されやすく、つまり同誌のインパクトファクターを高める効果はあるだろうが、医学的意義は疑わしいし、面白くもない。 金と労力をかけて臨床試験をやれば、こうした「トップジャーナル」に掲載されるが、はたして、それが医学的に価値のあることなのかどうか。 これは、被引用数や、ましてやインパクトファクターを基準に研究者を評価することの馬鹿らしさにも通じる。 そういう点で、我々は見解の一致をみたのである。
ただし、Review 記事は良くまとまっていて勉強になるし、Case Records などの読み物も、面白い。 この雑誌は、マジメな医学論文誌というより、医学娯楽雑誌と考えた方がよろしいと、私は思う。 娯楽雑誌なのだから、もちろん、最初のページから最後のページまで通読する必要はなく、面白そうな記事だけ拾い読みするので構わない。 いわゆる後期研修医も含めた研修医であれば年額 25,000 円、社会人大学院生を含めた学生は 23,000 円なので、週刊文春を買うのと同程度の安さである。 ぜひ、諸君も読まれると良い。
私はこれまで、名古屋大学時代にも北陸医大 (仮) にも、この非常勤医のように公然と「トップジャーナル」を貶す医師に出会ったことがなかった。 あの北陸の田舎病院で初めて、それだけの見識の持ち主に会えたというのは、皮肉なものである。