これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
今年の 10 月 4 日は、旧暦 8 月 15 日にあたり、いわゆる中秋の名月であった。 中秋の名月は旧暦 8 月 15 日というのが定義であるが、細かいことをいえば、これは必ずしも満月ではない。 実際、10 月 4 日の 17 時 50 分頃に私が空をみた時、月は左が僅かに欠けており、月齢 14 程度であるようにみえた。 しかも、既に月は 20 度の高度にまで昇っていた。 望月であれば、明石との経度差を考えても月の出は 17 時 50 分頃であって、そのような高さにあるはずがない。 このあたりの事情については 国立天文台のウェブサイトが詳しい。
巷には、満月の日には出産が多い、という伝説がある。 過日、ある助産師と話す機会があったが、その人も、先の名月の日には出産が多かったと言っていた。 まぁ、伝説は伝説であって、キチンと統計をとれば、そういう偏りは存在しないであろう。 たまたま出産の多かった満月の日は印象に残り、話題にもなるが、そうでなかった満月の日は印象に残らないので、そういう偏りがあるかのように思われるに過ぎまい。 そもそも、上述の名月と望月の違いからもわかるように、世間の人が「満月」と認める日は、だいたい月に 3-5 日程度あり、かなり幅が広いのである。 上述の助産師も、頭のキレる人であるから、本気で満月と出産の相関を信じているわけではなかろう。 単にロマンチックな伝説として酒の肴としているに過ぎない。
しかし恐ろしいのは、昨今の日本における科学教育水準の低さである。 インターネット上で「満月 出産」などのキーワードで検索すると、恐るべき解説を述べたウェブサイトが多数、みつかる。 羊水がどうとか、惑星の引力がどうとか、意味のわからないことを書きつつ、そういう神秘的な何かの実在を客観的根拠なしに信じている連中が、どうやら存在するらしい。
私は何も、科学が万能だというつもりはないし、神の存在や神秘的な力の存在を否定するつもりもない。 しかし、客観的な観察事実に基づくことなく、後づけで理由を捏造して神の威光を主張するのは、合理的でなく、むしろ神を冒涜する所業である。 そもそも科学というのは、物事を考え論じる方法の学問であって、神の存在を否定するものではない。 キチンと実証されるならば、奇跡も科学の範疇に収まるのである。 一方、何の根拠もなしに決めつけ、都合の良い「事実」だけを取り出して「根拠」と主張するのは科学ではない。 その代表が、いわゆる血液型占いであるが、書くのも馬鹿らしいので、ここでは言及しない。