これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/11/13 Gift Authorship

医学の場における不正行為についてである。 他の大学の事情は知らぬが、少なくとも我が北陸医大 (仮) では、不正が横行している。 研修医の多くも、指導医の求めに応じ、公然と不正行為を行っているが、罪の意識は乏しい者が多い。 科学を修めず、ただ指導者の教えに忠実に行動することした考えてこなかったからである。 「指導者に言われたのだから、仕方ないではないか。」という弁明は、世の中では認められない。その指示に従った、諸君自身の責任なのである。 諸君の犯した不正、科学的犯罪は、二度と償うことができない。諸君の犯罪として、半永久的に、記録に残る。 取り返しのつかない過ちを犯したことを、よく認識し、悔いるべきである。

いわゆるギフト オーサーシップの話である。 これは、他人が成した科学的業績を、まるで自分の手柄であるかのように報告する行為である。 社会常識から考えれば、当然、これは不正行為であって、許されない。 もちろん科学の世界においても、これは重大な不正であるとみなされている。

世の中全般では、教授などのエラそうな立場の連中が、業績を水増しする目的で、このギフト オーサーシップを受ける例が多いようである。 しかし臨床医学の場に限れば、逆に、研修医や学生などがギフト オーサーシップを受けている例も少なくないのではないか。

医学分野における「著者資格」の基準としては International Committee of Medical Journal Editors の recommendation が広く受け入れられている。 多くの学術論文誌も、この recommendation に沿って投稿規定を設けているようである。 この recommendation によれば、論文の著者とは

  1. Substantial contributions to the conception or design of the work; or the acquisition, analysis, or interpretation of data for the work;
  2. Drafting the work or revising it critically for important intellectual content;
  3. Final approval of the version to be published;
  4. Agreement to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved.
  1. 研究計画の立案、データの収集、解析、または解釈のいずれかについて、重大な貢献をした
  2. 報告書を記述し、または重大な修正を行った
  3. 最終的に報告書を公表することを承認した
  4. 研究の全体について、その正確さや完全さについて充分な検討と修正が行われたことを保証し、責任を負う

の全ての項目を満足している者をいう。 研究の一部に関与しただけの者は、著者に名前を入れてはならないのである。 そういう者については、論文の末尾に謝辞 acknowledgement として表示する、というのが世界共通の規則である。 だから、例えば研究を指示しただけで内容は把握していない教授だとか、 あるいは実験しただけで論文の内容は知らない大学院生だとかは、著者と名乗ってはいけない。 10 月 17 日の記事で、笹井は科学者ではなかった、と書いたのは、この規則に反し、 自分では内容に責任を負えないような STAP 論文に共著者として名を連らねたからである。

臨床医学でいえば、もちろん、症例報告についても、この規則は適用される。 症例報告の場合、1. の「データ収集」というのは、実際の診療行為と解釈するべきであろう。 すなわち、自分が診療したわけでもない症例について報告することは、基本的には不正行為である。 もちろん、カルテを閲覧し、その記載に基づいて何らかの独自の解析を加えて報告するのならば、構わない。 しかし、カルテの内容をまとめて多少の考察を加えただけでは、症例報告の著者となる資格はない。

北陸医大の場合、研修医が、自分でみたわけではない症例について、地方の小規模な学会などで症例報告している例が多い。 私は、過去に研修医と病院長や指導医らの懇談会の席において、この問題をやんわりと指摘したことがあるが、 某副院長の「経験を積ませるという意味で、良いのではないか」という言葉により抑え込まれた。

北陸医大では、そうやって、研修医に経験を積ませてくれるのである。


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