これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/10/15 Statistical Adjustment

これを、どう訳せば良いのかは、知らぬ。 いわゆる statistical adjustment についてである。 いわゆる多変量解析と概ね同義である。 これは「様々な交絡因子が存在するデータから、目的とする成分だけを取り出す手法」などと解釈されることが多い。 一般向けの報道などでは「性別や年齢などの影響を除外して解析したところ」などと表現されることが多いように思う。 具体的には、cox の比例ハザード解析や、ロジスティック回帰分析などの手法が用いられることが多い。

統計を知っている人々は、この比例ハザードモデルやロジスティック回帰法が、現実には信用できない、ということを理解しているはずである。 これは、数学的に便利な仮定を用いることで、それぞれの交絡因子の影響を除外する手法である。 しかし通常、この仮定を満足しているかどうか、という点については特に議論せずに解析が行われる。 というより、現実には、この仮定を満足していることは、まず、ない。 現実には満足されていない仮定を用いて、形式的にロジスティック回帰分析を行ったところで、本当に意味のある結果が得られるはずはない。 それなのに、昨今の臨床医療論文においては、意味のない多変量解析に基づいて、さも重要な発見をしたかのような主張が頻回になされているのである。

現代の臨床医療論文は、大抵、結論ありきで書かれる。 「こういう関係があるはずだ」という結論が最初にあって、それを「証明」するためにデータを集め、 そして最初から決められていた「結論」を導出できるように「解析」するのである。 うまくパラメーターを調節し、不都合なデータは「エラー」とみなして削除し、予定した結論が出たら論文にするのである。 この試行錯誤の仮定を、彼らは「解析」と呼んでいる。 「良い結果が出たので報告する」という言葉には、そういう意味が込められているのである。 もちろん、これは良く言えば「不適切な多重検定」であり、悪く言えば「捏造」である。

現在の医学科教育は、基本的には職業訓練であって、ほとんど医学を教えていない。 「これは、こうだ」と教えられたことを覚えるばかりで「これは、なぜなのか」と考える教育は、ほとんど受けていない。 つまり臨床医の多くは、形式的には学士様であっても、実際には大学相当の教育は受けていないので、上述のような欺瞞にも気づかない者が多い。 仮に統計学に疎くても、それなりに科学を修めたことがあれば、ロジスティック回帰分析の胡散くささには気づくはずなのに、 そういう素養がないから、統計学で何ができて何ができないかを認識できないのである。 交絡因子を「正しく」解きほぐすことなど、現代の統計学では不可能なのに、まるで、それができるかのように勘違いしているのである。 なんとなく「皆がやっているから、それで良いのだ」という、非科学的で無責任な態度で「論文」を書いているのである。

学生や研修医の場合、指導者に命じられるままに、自分が何をやっているかもわからず、不正な研究報告を書いている例もあるだろう。 もちろん、これは第一には指導者が悪いのだが、それを不正であると認識できない不勉強な学生や研修医の側にも、責任はある。


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