これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/11/09 いわゆる z-drugs とベンゾジアゼピン

10 月 21 日の記事で少し言及した z-drugs の話である。 これはベンゾジアゼピンと同様に GABA 受容体の作用を増強する薬物群であり、臨床的にはベンゾジアゼピンと同様に睡眠導入剤として用いられるが、 化学構造はベンゾジアゼピンとは異なる。 具体的には zolpidem や zopiclone が該当し、一般名の頭文字が z であることから z-drugs などと俗称されている。 ベンゾジアゼピン系薬物に比して、z-drugs は依存性が少ないと言われている。

しかし、具体的にどの文献であったか記憶にないのだが、教科書か何かで私は 「z-drugs は、ベンゾジアゼピンに比して依存性が少ないと言われてきたが、実際にはそうでもないらしい。」というような記述を読んだことがある。 これがどの文献であったのかは、思い出せない。私の書棚にある教科書を探してみたが、みつからない。

そこで文献検索してみたところ、z-drugs の依存性についてはっきり記載した文献は、あまり多くない。 ただ、近年では「z-drugs の依存性は、以前言われていたほどには低くないようだ」とする記載が多いようである。 まとまったレビューとしては Br. J. Clin. Pharmacol. 64, 198-209 (2007). が読みやすい。 このレビューもそうだが、どうやらフランスでは z-drugs の依存性を警戒する意見が強いようである。

教科書の記載も紹介しておこう。 薬理学の名著 Golan DE et al., Principles of Pharmacology, 4th Ed. (Wolters Kluwer; 2017). では、z-drugs について

This selectivity is associated with reduced muscle relaxant and anxiolytic actions, but tolerance and amnesia remain as potential adverse effects.

と記されているが、依存性が低いとは述べていない。 また精神医学の Sadock BJ et al., Kaplan & Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry, 10th Ed. (Wolters Kluwer; 2017). は

Although the nonbenzodiazepine hypnotics (z-drugs) are similar to benzodiazepines in human misuse liability measures, the actual rates of misuse may be lower according to some authorities.

としており、z-drugs の依存性が低いという意見に対して否定的な立場を示している。

なぜ、私がこのように z-drugs の依存性にこだわるかというと、現実に z-drugs に依存している患者は多いからである。 長期にわたり「1 日 1 回、寝る前」などとして z-drugs を処方されている患者は、実に多い。 「薬がないと眠れない、薬を出してくれ」などと言って定期的に処方を受けている時点で、それは依存である。 そういう z-drugs 依存の患者は、大学病院でも多いが、昨月に研修で訪れた診療所では、もっと多かった。

もし、いわゆる臨床研究において z-drugs の依存性が低いかのような結果が出たとすれば、 それは、ある種のテクニックにより、こうした z-drugs 依存の患者を統計から外した結果であろう。 統計を知っている者なら、そのくらいの技を使うことは造作もない。


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