これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/03/08 子宮平滑筋腫と過多月経

一週間近く、あいてしまった。よくない。 はっきり書くのを忘れていたが、2 月より、病理医としてのキャリアが始まった。 正式に北陸医大 (仮) の病理部に就職するのは来月であるが、2 月から、初期研修の一環として病理部に配属されている。 今月からは、指導医による手厚いサポートの下で、診断業務の一翼も担っている。

本日の話題は、子宮平滑筋腫である。臨床的には「子宮筋腫」と呼ばれることが多いが、病理学的には「平滑筋腫」である。 これは、平滑筋が良性腫瘍になったものであると考えられている。 子宮平滑筋腫があると、症状として過多月経を来すことがある、という話については 5 年ほど前に書いた。 その機序として、日本で広く信じられている説明は「粘膜下筋腫の存在によって子宮内膜の面積が増えるから」というものである。 この説明を初めて私が聞いたのは医学科 4 年生の時であったが、その後、これは疑わしい、と思うようになった。 というのも、子宮内膜の表面積をそれほど大きくは変化させない程度の小さな平滑筋腫であっても、症状としては顕著な過多月経を来すことが稀ではないからである。 婦人科医の中にも「面積説」を信じている者がいるようだが、彼らは、患者をよくみていないか、それとも論理的思考を放棄しているかの、いずれかであって、しかも不勉強である。 私が調べた限り、「面積説」を支持するキチンとした文献は存在しない。

過日、平滑筋腫について勉強する機会があった。 病理診断に提出された検体に含まれていた少量の平滑筋をみて、これが正常な子宮平滑筋なのか、平滑筋腫なのかを、鑑別しようと試みたのである。 私は「攻めの病理医」であるから、その平滑筋繊維の走行が錯綜している点を根拠に「Suspect of Leiomyoma.」という診断を唱えた。 「平滑筋腫疑い」というわけである。 が、指導医から「攻め過ぎだろう」と言われ、結局、削除された。 後から思うに、「Suspect」ではなく「Possible Leiomyoma」、つまり「平滑筋腫の可能性がある」ぐらいにしておけば、通ったかもしれぬ。 惜しいことをした。

平滑筋腫と過多月経の関係について、合理的な記載をしているのは、病理診断学の聖典 Goldblum JR et al., Rosai and Ackerman's Surgical Pathology, 11th Ed. (Elsevier; 2018). であった。 同書が述べているのは「筋腫の存在によって子宮の収縮が妨げられ、止血されにくくなる」というものである。合理的な解釈である。 気になったので、Ackerman の過去の版も調べたところ、2004 年発行の第 9 版には既に同様の記載がなされていた。1981 年の第 6 版には、みあたらない。

なお、同書によれば、子宮平滑筋腫ではしばしばマスト細胞が著明に認められるらしい。 最近、マスト細胞に注意して標本をみるようにしているのだが、実は彼らは、いたるところに存在する。 炎症があるところには、常にマスト細胞が存在するのではないか。 しかも、教科書的にはマスト細胞の顆粒はヘマトキシリン・エオジン染色ではほとんどみえない、などと書かれているが、 少なくとも北陸医大 (仮) の標本では、かなり明確に染まってみえる。

標本をよく観察すると、診断には直結しないところで、様々な発見がある。


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