これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/02/28 「○○という論文もある」

病理部での研修が始まり、適応に時間を要している。日記の間隔があいており、よろしくない。 来月からは、少しマシになるよう、努めよう。

インターネット上や一般向けの新聞などで、素人向けの医療情報をみかけることがある。 むろん、中にはキチンとした医学的内容が記載されているものもあるが、中途半端で不正確な内容も多い。 そういう無責任な記事で、しばしばみかけるのが「○○という報告もある」あるいは「△△とする論文がある」というような表現である。

学問をやっている者にとっては常識であるが、論文に記載されている内容は、あまり正しくないことが多い。 というより、大抵の場合、何かしら間違っている。

数学や理論物理学の場合、単に論理が間違っている、ということが、しばしばある。 これは、難解な学問分野であるために、専門家でさえ、本当に論理が適切かどうか判定することが難しいからである。

実験や統計調査に基づく報告の場合、「間違い」のパターンには、いくつかある。 一つは、純粋なデータの取り間違いであって、これは、一定頻度で生じることはやむを得ない。 もう一つは、悪質なデータの改竄であって、意図した結果を導くために、値を改竄したり、不都合なデータを削除したり、 あるいは恣意的で不適切な解析方法を採用したりするものである。 これは、非常に頻度が高いと思われる。

従って、論文を読む時には、その内容を安易に信じてはならず、自身の学識に照らし、それが正しそうかどうか判断しながら読まねばならぬ。 論文というのは、勉強の足りない学生や研修医が、そう簡単に読めるものではないのである。 「○○という報告もある」という事実には、何の情報価値もない。

ところが、現在の医学教育においては、そのあたりの基礎的なことがキチンと教えられていない。 学生や研修医ぐらいだと、「で、その論文の記載は正しいのか」と問われた際に「それは、知らないよ」と無責任に答える者が多いのである。

同じ年頃の理科や工科、あるいは文科の学生などに比べると、医科の我々は、学術水準が極めて低いといわざるを得ない。

2018.03.10 誤字修正

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