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教科書を買わない学生や研修医は、多い。
北陸医大 (仮) の研修医の給与は、たぶん、医者としては全国最低水準であるが、それでも月の総支給額 31 万円、手取りで 25 万円程度である。 非常勤扱いで、賞与はなく、時間外手当も基本的につかないが、それでも世間の標準に比べれば、大卒初任給としては高給である。 その、ありあまる資金を、諸君が一体、何に使っているのかは、知らぬ。
研修医室の個人机の上をみる限り、教科書に多額の予算を投入している研修医は多くないようである。 1 万円もしないような薄いアンチョコ本は買っても、キチンとした重厚な教科書は、あまり買わない。 だいたい、図書館で借りて済ますのである。 紙ではなく電子版を大量に買っているのだ、という者もいるかもしれないが、たぶん現時点では、多数派ではないだろう。
「はじめての○○」だとか「必ずわかる△△」というような薄い本は、読みやすいであろう。 「病気がみえる」だの「Year note」だのは、簡潔にまとまっていて、わかった気分になりやすいであろう。 しかし患者の立場からすれば、そういう書物ばかり読んで「勉強」している医者に、診られたいだろうか。
地域医療研修として、あるいは患者として、街の医院を訪れたら、診察室をよく観察すると良い。 多くの開業医は、患者心理をよく理解しているから、ハッタリのために、診察室に重厚な医学書を並べているはずである。 それらは、大抵、彼らが学生の頃に、あるいは医者になってすぐの頃に購入した、古い教科書である。 たぶん「ハリソン内科学」だとか「ロビンス病理学」だとかの、20 年ほど前の版であろう。 既に実用性の失われた古い書物であるが、見栄のために、並べているのである。
以前、ある指導医が若い研修医に対し、次のように述べているのを、たまたま耳にした。 研修医のうちから金を貯める必要はない。むしろ今はキチンとした教科書を買って、しっかり勉強するべきだ。 今のうちに投資しておけば、いずれ、ずっと大きくなって返ってくる。
これは自慢であるが、私の貯蓄は、研修医になってから、1 円たりとも増えていない。 酒は飲まず、むろん煙草は喫わず、車も持っていない。いかがわしい遊びに金を使うこともない。 それでも、貯蓄は緩徐に減っている。 キチンと計算してはいないが、二年間で教科書等に 100 万円ほど使っているからである。 だいたい給与の手取りの 15-20 % 程度を投入しており、二年前に述べたことを実行しているわけである。 おかげで、北陸医大病理学教室の私の机に置かれている個人所有の書籍数は、教授には及ばぬかもしれぬが、同室のベテラン病理医には負けぬ。
農協関連の病院では、研修医の給与が非常に高く、月に 50 万円を超えることも珍しくないらしい。 このことを、ある看護師に教えたところ「敢えていいますけど、研修医の分際で、それですか?」と言っていた。 その看護師氏の言う通りで、異常な給与である。 そういう病院に勤めている研修医諸氏の本棚は、さぞ充実していることだろう。