これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/02/18 先輩医師とキャリアを語る会

過日、北陸医大 (仮) では医学科の 5 年生を対象として「先輩医師とキャリアを語る会」が開催された。 これは、初期臨床研修や専攻医研修の説明、および若手医師の経験談を通して、将来について考える機会を提供する催しである。 むろん、病院側としては、北陸医大、あるいは県内の病院で初期臨床研修を受ける者を増やしたい、という思惑もあるだろう。 基本的には、北陸医大の研修・教育体制の良い点を強調するような論調であった。

北陸医大の教育体制は、確かに、悪くない。 診療科にもよるであろうが、私の経験した範囲では、「研修医の仕事」として課される任務は比較的少なかった。 そのため、自分の判断で、自分の好きなように勉強する時間を存分に確保することができ、たいへん充実した研修生活を送ることができた。 これは、東京の某有名私立病院で初期研修を受けた名大時代の同級生の某君が 「課される仕事が非常に多く、ゆっくり勉強する暇がない。研修医になってから、教科書など一度も開いたことがない。 マニュアル本などに従って診療をこなすので精一杯である。」などと言っていたのとは対照的である。

さらにいえば、私は、どの診療科においても研修の初めに「病理医になります」と宣言していたためか、指導医の皆様から多大な配慮をいただいた。 通常、研修医には事務作業に類するような、俗に「雑用」と呼ばれる、あまり医学的ではない仕事が与えられることが多い。 これには、医師免許が必要ではなく、本来なら医師がやらなくても良いのだが、慣習的に医師が行っている、というような作業が多く含まれる。 それを研修医にやらせるのは、面倒だから押しつけている、ということではない。 いずれ、やらねばならないのだから、今のうちに、やり方を覚えさせてやろう、という指導医の配慮なのである。 実際、病理医になる私は、そういう「雑用」を覚える必要はないのだから、指導医の多くは、敢えて私にやらせようとはしなかった。

以上のことからわかるように、時間があれば怠けてしまう、つい遊んでしまう、という者は別にして、 自分の判断で勉強できる者にとっては、北陸医大の初期臨床研修は天国のような環境といえよう。

だが私は、「語る会」の後の懇親会の場において個人的に話をした複数の学生に対し、県外に出るよう勧めた。 確かに北陸医大の研修環境は優れているが、しかし、長年にわたり一カ所に留まり続けるということ自体が、良くない。 北陸医大で 6 年間の学生生活を送ったのならば、初期研修は、別の場所、遠く離れた場所で受けるべきである。 たとえば専門医資格を取った頃になっても、それでも北陸の地が懐しく思われるのであれば、それから帰ってくれば良いのである。

学生生活を送ったこの地で、医師としての活動を始めるならば、安楽で、働きやすいかもしれぬ。 しかし、それは自身の能力を研くという観点において、はたして、有益だろうか。

井蛙になることを、恐れるべきである。

2018.02.19 余字削除

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