これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
医学分野で AI というと Autopsy Imaging を連想されるかもしれぬ。 これは、死後に CT などを撮影して診断に役立てるものである。 むろん、CT で得られる情報は限られており、正確な診断や病態把握には程遠いので、「解剖の代わり」と考えるべきではない。
本日の話題は、そちらの AI ではなく、Artificial Intelligence の方の AI である。 近頃、この AI という語を無思慮に用いる者が多く、定義は曖昧にされ、コンピューター技術を全て AI と呼ぶような風潮まである。 たとえば本日付の朝日新聞の記事をみても、 単にコンピューターで顧客数のデータを処理しているだけのシステムを AI と呼んでいる。 人工知能、あるいは AI という語の定義は曖昧であるものの、こうした、知性を使わない情報処理技術を AI と呼ぶのは、不適切であるように思われる。
情報処理分野で近年盛り上がっているのは、パターン処理技術である。 たとえば囲碁においては、私が中学・高校の頃は、 「『読み』については人間はコンピューターに及ばないが、『感覚』の部分において人間が圧倒的に強く、まだまだコンピューターは人間に及ばない。」などと言われていた。 ところが近年はパターン処理技術の発展により、その「感覚」の部分においてさえ人間を超えつつある、あるいは既に凌駕した。
いくらコンピューター技術が発達しても、人間がいらなくなることはない。 コンピューターを管理し、使役する役割が必要だからである。 その意味において、世間一般においては、人間がコンピューターに駆逐されることは心配しなくてもよかろう。 しかし、医師にとっては、別である。
医師の中にも、コンピューターを使う役割、責任を負う役割は必要だから、という理由で、自分達がコンピューターに駆逐される恐れはないと主張する者がいる。 笑止である。 ただコンピューターを管理するだけの仕事で、年収 1000 万円以上が保証されると思っているのだろうか。 コンピューターを監督するだけの仕事なら、医師ではなく技師で良く、給与も医師の半分以下で済む。
こうした的外れな発言が出るのは、医師の多くがコンピューターに疎いからであろう。 Windows だの Mac だのの使い方には習熟していても、コンピューターの技術的なことは、ほとんど知らぬ。 それゆえに、コンピューターで何ができ、何ができないのか、区別できないのである。
本当に知性的な作業のできる、知能を有する存在としての AI は、未だ実現していない。 コンピューターにできるのは、過去の経験からパターン認識して予想を立てることだけである。 それを理解していれば、コンピューターに職を逐われないためにどうすれば良いか、自明であろう。
そういう勉強の仕方を、諸君は、しているだろうか。