これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/02/08 糖原病 I 型による腎傷害 (2)

糖原病 I 型において、なぜ、腎尿細管上皮にグリコーゲンが蓄積するのか。

自然に考えれば、次のような過程が推定される。 まず、原尿中に瀘過されたグルコースは尿細管から再吸収される。 これは、まず尿細管上皮に取り込まれ、次いで間質を経て血管内へと移行するのであろう。 尿細管上皮には、多少なりともヘキソキナーゼが発現しており、グルコースをグルコース 6-リン酸へと変換する。 正常であれば、グルコース 6-リン酸は適宜グルコースに変換されて間質へと放出されるのだが、糖原病 I 型の患者では、それが起こらない。 結果として、徐々にグルコース 6-リン酸が尿細管上皮内に蓄積し、それがグリコーゲンに変換されて蓄えられるのである。

この仮説の最大の問題は、尿細管上皮細胞のグリコーゲン合成能は生理的なものなのか、それとも病的なものなのか、という点である。 グリコーゲン代謝のレビューである BBA Clin. 5, 85-100 (2016). は、次のように述べている。

Glycogen is predominantly stored in liver and skeletal muscle. It has been identified in other human tissues such as brain, heart, kidney, adipose tissue, and erythrocytes, but its function in these tissues is mostly unknown.

グリコーゲンは、主として肝臓および骨格筋に貯蔵されている。 ヒトの場合、他にも脳、心臓、腎臓、脂肪組織、および赤血球内にも存在することが知られているが、それらの機能はほとんど不明である。

残念ながら、この記述には参考文献が付されていないので、腎臓にもグリコーゲンが存在するという記載が病的なものなのか生理的なのかは、よくわからない。

糖尿病患者の尿細管にグリコーゲンが蓄積することは、歴史的によく知られてきた。いわゆる glycogen nephrosis である。 これは高血糖状態が持続することによって生じると考えられており、インスリン投与などによって血糖がコントロールされていれば、生じにくいようである。

ラットに糖尿病を誘発し、グリコーゲンが尿細管のどの部位に蓄積するかを詳細に調べたのが P. Holck らである (Diabetes 42, 891-900 (1993).)。 Holck らによると、グリコーゲンはヘンレの係蹄の太い上行脚を主体に蓄積するが、太い下行脚などにも蓄積する一方、近位尿細管や細い上行脚には異常蓄積はみられなかった。

私が読んだ限りで理解できなかったのは、近位尿細管などに「異常な蓄積」はなかったとしても「正常な蓄積」はあったのかどうか、という点である。 たとえば N. Engl. J. Med. 231, 865-868 (1925). には 「glycogen nephrosis のうち、ヘンレの係蹄で認められたもののみを糖尿病によるものと判断する」というような記載があり、 その他の部位には生理的なグリコーゲン蓄積があるかのように読める。

結局のところ、光学顕微鏡で認識できるほどに明瞭な顆粒を作るかどうかはともかく、多少のグリコーゲン合成能は、ほとんど全ての細胞が有していると考えて良いのだろうか。


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