これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
名古屋大学にせよ北陸医大 (仮) にせよ、学生に対し、自大学で、あるいは、いわゆる関連病院で、初期臨床研修を受けることを勧める医師は少なくない。 が、私は、自大学で初期研修を受けることの利点が、全く理解できない。
名古屋大学も北陸医大も、いずれも、良い大学ではある。 が、国内で最高の環境である、とは言い難いし、欠点も少なくない。 そういう環境に閉じ籠もるのではなく、広い外の世界に出て、幅広い視野を鍛えた方が良いのではないか。 たとえば、実は名古屋大学の医療水準はなかなか高いのだが、これは、名古屋大学の中にいては気づくことが難しい。 外に出て初めて気づくことは、少なくないのである。
北陸医大の人々が学生に対し、北陸医大に残ることを勧める際に、しばしば理由として挙げるのは次のようなものである。 学生として 6 年間過ごし、研修医として 2 年を過ごせば、当然、そこで働いている医師等の知り合いが増える。 すると、臨床上の問題などで悩んだ際に、公式なコンサルト以外に相談したり議論したりしやすくなる。これは大きな利点である、というのである。 似たような意見は名古屋大学時代にも聞いたことがあり、それについては 4 年前に書いた。
これは、一見、もっともらしい意見である。 知り合いが多ければ、医学上の議論もしやすく、診療においても連携が取りやすくなりそうな気がする。 しかし冷静に考えれば、その発想は、おかしい。
名古屋大学や北陸医大では、よそから来た医師は、土着の医師と連携が取りにくく、公式のルート以外での相談もやりにくい、ということなのか。 もし、そうであるならば、そのこと自体が問題なのであって、名古屋大学や北陸医大の風土には重大な欠陥があると言わざるを得ない。
北陸医大にも、他大学などから、一年程度の期間限定で働きに来ている医師は少なくない。 そういう人々は、どのように感じているのか。 その本音の部分は、聞いたことがないので、知らぬ。
実際、自大学に残ることが、その人の医師としての修練に有益だと考えている教員は、ほとんどいないと思われる。 たとえば私は昨年度、某教授に対し「もっと、外に出ることを推奨すべきではないか」と進言したことがある。 すると、教授は次のように述べた。
「それは、まぁ、君、わかるだろう?」
要するに、北陸医大としては、診療を支える人員が欲しい。 若い医師にとっては、地元でヌクヌクと生きるのは安楽である。 そういう利害の一致があるに過ぎず、それが教育として適切かどうかは考慮されていない。