これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/01/23 サリチルアミド・アセトアミノフェン合剤

商品名は出さないことにするが、サリチルアミドやアセトアミノフェンなど 4 種類の薬物の合剤であって、総合感冒薬として市販されている薬剤がある。 要するに、いわゆる風邪薬である。 しかし、薬理学を修めた者にとっては常識であるが、風邪薬などという薬は、存在しない。

まず、インフルエンザの恐れがある場合には Reye 症候群を来す恐れがあるからサリチル酸系薬剤を投与するべきではない、と言われている。 ただしReye 症候群の病態をまともに認識している医者は少ないと思われる。 病態を無視して盲目的に「インフルエンザにはサリチル酸禁忌」などと唱える医者に対しては嫌悪感をおぼえるが、まぁ、とんでもなく間違ってはいない。

では、いわゆる「ふつうの風邪」に上述の合剤を処方するのは、どうか。 問題は、処方の目的は何か、ということである。 他のウェブサイトなどでも解説されているので詳細は述べないが、 この種の合剤には、風邪を治す効果はない。 むしろ、炎症を抑えることで、いわゆる風邪の原因であるウイルス感染自体は遷延させるものと考えられる。 あくまで炎症に伴う諸症状をごまかすだけの薬なのである。

症状を抑えたいのだから、処方するのは問題ないじゃないか、と述べる医者もいるだろう。 そういう者に問いたい。 薬物動態を理解しているのか。 本当にそれが適切な処方だと思っているのか。

我々は、多種類の薬剤を併用した場合に、それらがどのような相互作用を及ぼすのかという点について無知である。 それ故に、複数種類の薬を併用する場合、何が起こるか分からないという前提で、我々は慎重に経過を観察する。 それを、上述の合剤のように、必然性もなしに 4 種類もの薬剤を一度に投与するというのは、薬理学を修めた者のすることではない。 製薬会社が公表している添付文書やインタビューフォームにも、合剤としての薬物動態は不明であると明記されているのである。 だから、副作用の出現頻度を抑えるために、個々の薬物は少なめに設定されている。

まともな内科医は、こうした薬剤は処方しない。 医学的判断として、この薬の処方が適切であるような状況が存在しないからである。


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