これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/01/10 世間は諸君に何を期待しているか

ここでいう「諸君」とは、大学院経験者で、挫折して医学転向を考えている同志諸君のことである。 おそらく、諸君は多少なりとも自信を喪い、いささか卑屈な精神状態となって、医学への逃亡を考えているであろう。 私も、7 年前は、そういう状態であった。 夢破れ、何とか医学に活路を見出そうとしていたものの、本当に自分の能力や経験が役に立つのか、半信半疑であった。

時は流れ、医師となって、臨床医学・医療の世界を垣間みた。 名古屋に移った 6 年前には教授陣の後姿も捉えることができなかったが、今は違う。 未だ医学のトップランナーには及ばぬが、その背中は、はっきりと視界に入っている。

7 年前の自分にメッセージを送ることはできないが、今、かつての私と同様に悩み迷っている諸君には、伝えたいことがある。

医学の世界では、人材が欠乏している。 当然であろう。高校時代に試験の点数が高かっただけの連中が大挙して医者になっているのが現状なのである。 「医学科に入学した」というだけの理由で、実は大した仕事もしていないのに、自分が高い給料と世間からの尊崇を受けて当然だと思い込んでいるのである。 現在の医療の問題点を探し、何がまずいのか、いかにすれば解決できるか、と考えるのではなく、できない言い訳と自己正当化をまず考える者が多いのである。

エリートコースしか知らず、最初から医師免許に守られ安寧の中で生きてきた連中に、どうして学問の茨の道を歩むことができよう。 どうして社会を改革し、人類と科学の未来を築くことができよう。

諸君は、敗れたとはいえ、一度は戦った勇者である。 自分の足で立ち、自身の意志と信念にのみ依って歩く人々である。 その事実は、諸君が思っている以上に、重大である。

むろん、この道には、辛いことも多く待ち構えている。 周囲には、諸君の経歴と能力を軽んじる者も多い。 しかし、それと同数、あるいは、それ以上に、密かに諸君に期待を寄せる人々も多いのである。 私は、名古屋大学時代にも北陸医大 (仮) に来てからも、少なからぬ若い医師から侮られてきたが、 一方で教授陣をはじめとした多くの重鎮医師からは、暖かい励ましと期待の声を頂戴してきた。

これからの医学を拓くために、諸君のような人物を、我々は必要としている。

2018.01.10 語句修正

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