これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
第一生命保険が、子供を対象とした大人になったらなりたいものアンケートの結果を発表した。 これは、同社が毎年行っている恒例行事であって、作文コンクールと同時に行ったアンケートである。 当然、かなりのバイアスが入っているはずであって、日本の子供全体を代表するものではない点には注意が必要である。
将来なりたいものとして、男子は「学者・博士」が 1 位に上昇したという。 ただし、スポーツ選手については「野球選手」「サッカー選手」「水泳選手」などと種目別に集計しているのに対し、 「学者・博士」は人文科学と自然科学の区別もないのだから、これを「1 位」と表現するのは不公平である。 また、冷静に考えると「博士」というのは資格であって職業ではないから、他の選択肢と並列におくべきではなかろう。 とはいえ、男子の 8.8 % が「学者・博士」を選んだという事実は、学問に対する憧憬の存在を示すものであり、喜ばしい。
気になるのは女子の結果である。 「学者・博士」は 10 位以内に入っておらず、比率としては 2.5 % 未満であるらしい。 この男女差は、一体、何なのか。 これが生物学的な男女差によるものであるならば問題はないのだが、はたして、そうなのか。 科学的思考や自然への関心を育むような教育は男子に対して行われることが多く、女子に対する科学教育が遅れているためではないのか。
こうした暗黙のうちに設けられた男女差は、その後の教育にも大きく影響している。 文部科学省の学校基本調査によれば、 現在、高等教育を受ける人の割合では男女に大きな差はないが、女子は短期大学に進む者が比較的多い。 すなわち、四年制大学に限れば、女子の大学進学率は男子よりも、かなり低い。 また四年制大学の中でも、京都大学や東京大学など、いわゆる有名大学、特に理工系学部においては、かなりの男女差があるのが現状である。
上述のアンケート結果に話を戻す。医療分野についても、著明な男女差がみられる。 男子では「お医者さん」が 6.4 % であるのに対し、女子は「看護師さん」9.5 %, 「お医者さん」 6.6 %, 「薬剤師さん」 3.4 % となっている。 男子では「看護師」は上位に入っていない。 なぜ、看護師が、女子にこれほど人気なのか。
「病気の人を助けたい」というような漠然とした理由だけで医療職を選ぶなら、医師より看護師を選ぶことはないように思われる。 むろん、現実には、患者をより近くで支えたいと思うなら医師より看護師の方が適しているであろう。 従って、高校生ぐらいを対象としたアンケートなら、医師ではなく看護師になりたい、と考える女性が多かったとしても、おかしなことではない。 しかし、そういう具体的な理由で、小学生以下の女児が「お医者さん」よりも「看護師さん」を選んだと考えるのは無理がある。
何か、偏見があるのではないか。 「お医者さん」よりも「看護師さん」の方が、女の子らしい仕事であるかのような印象が作られているのではないか。
「男は男らしく」「女は女らしく」という考え自体は悪くないかもしれない。 しかし、何が男らしさなのか、何が女らしさなのか、という点については注意が必要である。 世の中には、外科医を男らしい仕事、看護師を女らしい仕事とみる者が一定数、いるのではないかと思われるが、極めて不適切である。