これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
過日、北陸医大 (仮) の研修医症例発表会が行われた。 これは二年次研修医が、これまで経験した症例などについて発表するものであるが、内容は必ずしも症例報告でなくても良い、ということになっている。 発表内容を指導医などが採点し、最優秀賞と優秀賞が表彰された。
たいへん良かったのは、泌尿器科に進む某君の発表である。 これは、発表スライドの作り方について述べたものであって、フォントをどうするか、背景をどうするか、などの技術的なことを簡潔にまとめたものである。 他大学はよく知らぬが、名古屋大学や北陸医大の医学科では、こうした発表技術についての教育は、ほとんど行われていない。 その教育システムの問題点を補完しようという試みであって、彼の発表が最優秀賞どころか優秀賞にすら入らなかったというのは、採点方法に問題があるのではないか。
この発表会では、どこかの小さな学会で発表した内容を転用している研修医が多いようである。 そのこと自体も問題であるが、発表内容には指導医がかなりの程度介入している例が多いらしいことは、もっと問題である。 つまり、発表会の本来の趣旨である「研修医自身が学んだことを発表する」という目的が達されていないのである。 また、発表者がその患者を実際にはみていない、いわゆるギフト オーサーシップにあたる例も少なくないようであり、不適切である。
それはさておき、今年は発表会の後に、北陸医大の基礎の某教授による 30 分の短い講演も行われた。 私は北陸医大出身ではないから、基礎の教授陣とはあまり面識がないのだが、実はこの教授には 6 年前、医学部学士編入試験の時に会ったことがある。 教授は私のことを覚えていてくれたらしく、たいへん感激した。 私の記憶によれば、教授は編入試験の面接の挨拶で 「諸君には、他の医師に対する教育、あるいは研究などを通じて、指導的な立場として活躍することを期待している」と述べた。 この言葉に、私はたいへん、勇気付けられたのである。
さて、発表会の後に教授は基礎医学研究の重要性について講演したのだが、その内容は、おそらく、ほとんどの研修医には伝わらなかったと思われる。 質疑応答の際、私は、次のような質問をした。 近年では、医学科教育においても、卒後教育においても、基礎医学はたいへん軽んじられている。 特に、医学科において臨床実習の期間を伸ばすために基礎を削るという動きがあり、とんでもない話である。 それに対し、基礎の先生方を中心に様々な対応が練られていることは承知しているが、我々、若手の立場から、何かできることはないだろうか。
私としては、基礎を疎かにして闇雲に臨床を学ぶのは砂上に楼閣を建てるようなものであって、 若手の立場ならではの方法で医学教育の改善に貢献できないだろうか、と問うたつもりであった。 が、私の質問の意図を教授は理解されなかったようで、だいぶ異なる回答が返ってきた。 たぶん、研修医からそういう発言が出るとは想定していなかったために、即座には理解できなかったのであろう。