これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/06/22 病理学会 第 2 日

本日の午前の前半は、当初、ある口頭発表セッションに参加したのだが、あまり面白くなかったので、途中で退出してポスターセッションに移った。 今にして思えば、最初から、名古屋の中村教授が座長を務めていたセッションや、慶應の橋口博士が登場するセッションに参加しておけば、面白い話が聞けたのかもしれぬ。

ポスターセッションでは、昨日同様、いくつかのポスターの傍に、質問やコメントを書いた名刺を残しておいた。こういうことをやっているのは、どうやら会場中で私一人のようである。 しかし後に四国医科大学 (仮) の某教授に聞いたところでは、医学系の学会でも、海外であれば、ポスター前で発表者と来場者が激しく討論したり、ポスターの縮刷版を配布したりといったことは珍しくないらしい。 それなら私も遠慮する必要はない。明日は、もう少し堂々と、名刺を残すことにしよう。

ポスター発表では、夕方に一時間ほど「発表時間」というものが設けられており、「座長」とされる人や数人の聴衆を前に、発表者が口頭でポスターの内容を 6 分ほどで説明する時間がある。 しかし、そういう場では声も聞こえにくいし、深く突っ込んだ議論もできず、面白くない。 さらにいえば、若手発表者の場合、質問に対して自分で答えることができず、指導者が救援に入る例も少なくない。 要するに、筆頭発表者であるはずの若手が実は研究の全容を把握しておらず、また指導者も、十分な教育・指導をせぬままに学会に送り出しているわけである。 それを恥ずかしいと思う感性を、はたして彼らは、持っているのだろうか。

まことに遺憾であったのは、東海地方の某名門国立大学からの発表者達である。 ポスターは朝の 9 時 30 分までに掲示することになっている。 かの大学からは、昨日も本日も数名のポスター発表者がいたのだが、その大半は、定刻までに掲示をせず、午後になってからようやく自分のポスターを貼りに来たようである。 かの名門大学の人々であるから、さぞ立派な研究をしているのではあろうが、それを世に示し、堂々と議論しようという姿勢を欠いている。 一体、何のために学会に参加しているのか。

午前の後半は、福井大学の内木教授による、アミロイドーシスについての宿題報告を聴いた。 内木教授は、発表技術も巧く、むろん内容も学術的で、アミロイドーシスの本態に迫る意欲が露わな、楽しい講演であった。 教授は、たぶん意図的に講演を早く終わらせ、質疑応答の時間を長めに確保した。 遺憾なのは質問者の態度であって、「貴重なご講演をありがとうございます」だの何だのと、無意味で冗長な挨拶をして時間を浪費する者ばかりであった。

昼には、ランチョンセミナーで、大腸癌とミスマッチ修復障害の話を聴いた。 Lynch 症候群の原因遺伝子は MLH1, MSH2, MSH6, PMS2 が知られているが、時に、明確な家族歴がないのに、これらの遺伝子が生殖細胞系列で 2 コピーとも失われている人がいるらしい。 これは、de novo 変異が絡んでいることもなくはないだろうが、基本的には両親ともに Lynch 症候群であるが診断されていない、というパターンであろう。 こういうケースは PMS2 遺伝子の異常であることが多いらしい。 たぶん PMS2 遺伝子変異は頻度が高く、一方、浸透率は低いのであろう。

午後の前半はポスターを眺めて過ごした。 私以外にも、ポスターをみている人は多かった。 しかし発表者の方は、座長の前で話すための準備に勤しむ者が多い一方、自分のポスターをみている人に対して積極的に声を掛ける者は、ほとんど、あるいはまったく、いなかった。 現在の日本病理学会の水準は、その程度なのであろう。

午後の後半は、感染症のワークショップに参加した。 渋い分野であるが、真菌感染症を論じた東邦大学の澁谷教授の話が、たいへん面白かった。

明日は学生や研修医のポスターセッションの他、胎盤病理のセッションがある。実に楽しみである。

2018.06.23 誤字修正

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