これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/05/17 給与明細

研修医時代の私の給与明細は、二年前に示した。 昨日、三年目の医師としての初給与の明細が届いたので、その内容を転載しよう。比較のため、研修医時代の金額を括弧内に示す。

現金支給額218,724 (338,174)
給与期間30. 4. 1- 30. 4. 30
減額0
本給支給額270,150 (186,350)
住居手当0 (0)
時間外労働時間等0 (0)
時間外労働手当等0 (0)
特殊勤務手当0 (125,380)
通勤手当0 (79,380)
給与支給総額270,150 (391,110)
控除額合計51,426 (52, 936)

いくつか補足がいるだろう。 研修医時代の通勤手当は、6 箇月分の交通費 (バス代) を一括で支給されたものであって、毎月、この額を受け取っていたわけではない。 現在は、大学院生の身分も持っている非常勤医、という立場であり、我が北陸医大 (仮) の規定では「大学院医員」ということになる。 通常の「医員」と違い、大学院医員には通勤手当が支給されない。 これは、大学院生がアルバイトとして診療にも従事している、という解釈なのであろう。 学生に通学手当は支給されないのが普通なのだから、まぁ、このような規定になっているのは理解できなくもない。 しかし現実には、我々は診療の片手間に学業をしている、という状況であり、それ自体の是非はあるにせよ、通勤手当を支給しないのは合理性を欠くように思われる。

また、三年目の医師が時間外労働 0 時間、というのに、違和感をおぼえる人もいるかもしれない。 大抵、三年目の医師は、朝から晩まで病院を駆けまわり、仕事をしている、ようにみえるからである。 しかし、少なくとも我々病理医の場合、仕事と趣味と個人的勉強の境界が曖昧である。 仕事といっても、担当分の診断を遂行する、というものであって、当直などはない。 いわば、我々はサッカー選手と同じような業務形態なのである。 形式的には病院に雇用された労働者であるが、実際には、個人事業主に近い。 従って、時間で労働を測ることは難しく、「時間外労働」という概念は、なじまない。

さて、現在の給与と研修医時代の給与を比べると、非常に奇異なことがわかる。 本給は 8 万円程度の昇給となったが、特殊勤務手当 (研修医手当) がなくなったため、通勤手当を除いても 4 万円の減給である。 仕事内容と責任は格段に増えたのに、給与は減ったのである。

これは、大学病院の医師は大抵、アルバイトをしていることを前提としているのであろう。 三年目の医師であれば、健康診断だとか、市中病院の当直だとかに行くことが多いのではないか。 アルバイトといっても、これらは時給 1 万円を超えるものも多いらしい。

そのような妙な給与体系になっている背景は、よくわからない。 いわゆる医局制度が消失しつつあるとはいえ、実態として市中病院が大学病院からの「人員派遣」に依存していることは、以前と変わりない。 本来であれば、医師は大学病院の業務として市中病院に出張し、市中病院は大学病院に対価を払い、大学病院は医師に給与を払う、という形にすべきである。 しかし大学は、公式には人材派遣業を行っておらず、医師個人が副業をしている、という建前になっている。 そのため、「アルバイト代」が非常に高くなるのである。

私は、教授と相談の上、そういう健康診断や当直などのアルバイトは行わないことにした。 時間の無駄だ、という立場からである。そんな暇があるなら、しっかりと医学の勉強をするべきである。 少なくとも病理医としては、そういう副業は、金のための労働にしかならず、自分の勉強としての意義は乏しい。 若い医師がアルバイトをするのであれば、もっと、キチンと勉強になる副業を選ぶべきである。

が、そのような考えをする者は少ないようであり、大学病院の三年目の医師は大抵「大学からの給与だけでは生活できない」などと妄言を吐き、アルバイトに勤しむのである。 フルタイムで働いている三年目の医師で、私より収入が少ない者は、日本中探しても滅多にいないであろう。

なお、このような考えは、私や教授だけが持っているものではない。 研修医時代、放射線科において 中堅医師が三年目の医師に対し「当直のバイトなどは早くやめて、読影などの、自分の勉強になるバイトに切り替えるべきである」と言っていたのを、聞いたことがある。


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