これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
過日、愛媛の刑務所から脱走した男が 3 週間あまり逃走し、広島で逮捕された、という事件があった。平たくいえば、脱獄である。 刑法によると、これは「逃走の罪」にあたる。 「逃げること」自体が犯罪なのであって、刑法第 97 条には「裁判の執行により拘禁された (中略) 者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。」とある。
脱獄、で思い出したのが 2009 年のベルギーにおける脱獄事件である。 当時の朝日新聞の記事によれば、同国ではフランス革命思想の影響から「人類の自由への渇望は縛れない」として、脱獄自体は罪に問われなかったのだが、 あまりの脱獄の多さに、とうとう脱獄の犯罪化が検討された、とのことである。 この記事に対する当時のインターネット上の反応をみると、脱獄自体は咎めないフランス的発想に賛同する意見は少なかったようであることが、私には意外であった。
諸君は、どう思うか。 悪事を働いて罰されたのであれば、おとなしく、国家の決定に服従すべきであると考えるか。 それとも、自由を求める心と、その心に従って行動する権利は、自然権の一つであって不可侵であると考えるか。
過日、ある人と、堕胎について論じた。 その人は私に「もし、あなたに子ができたならば、出生前染色体検査や、その結果に基づく人工妊娠中絶を行うか」と問うた。 私は、「染色体異常を理由とする堕胎は違法である。違法である以上、行うことは、できぬ。」と述べた。 ただし、私は、その人に対して誠実でありたいと思っているので 「もし、法がそれを許すのであれば、人工妊娠中絶を行うという選択はある。」と、つけ加えた。
染色体異常を理由とする堕胎は、違法である。 現状では、それを違法と知りつつ、「必要だから、やむなく」と、「経済的理由」ということにして実施している産科医は少なくないであろう。 が、「必要だから」「本人が望んでいるから」というのは、理由にならない。法律というのは、そのように軽いものではない。
人によっては、私の態度をダブルスタンダードだと言って批判するかもしれぬ。 堕胎については法の定めに従うのに、脱獄については違法行為を容認しているからである。 が、その批判は、当たっていない。
国家の定める法には、その法自体が人権を侵害している場合、あるいは国家の転覆を図る場合を除き、我々は従わなければならない。 そうしなければ、社会の秩序は維持できないからである。 従って、脱獄は人権を守るための行動であるから容認されるが、堕胎は、認められないのである。