これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2018/04/05 衆議院議員の資産と統計解釈

衆議院議員の資産についてである。 朝日新聞が、現職衆議院議員の資産の男女差について報じた。 男性は平均 3116 万円 (新人では 2519 万円) に対し、女性は 1144 万円 (新人は 439 万円) と、著明な男女差があるという。 これについて 「選挙をはじめ政治に金がかかる状況は改善されておらず、こうした男女間の資産の格差も『女性の政治参加を阻む一因になっている』と識者は指摘している」と記載している。 むろん、この記載は正しくない。 女性の政治参加と資産の多寡の関係は、このデータからは読み取れない。 むしろデータからは、「女性であれば、資産がなくても国会議員になりやすい」と解釈する方が自然である。 おそらく、記者は科学や統計学の素養が乏しいために、適切に情報を解釈することができなかったのだろう。

同様に、統計情報を適切に解釈できていない例は医学・医療の分野でも実に多い。 たとえば、食品会社の明治が内閣府の支援を受けて行った「研究」で、まるで「カカオの多いチョコレートを食べると脳に良い影響がある」かのような内容を 発表したのが昨年 1 月である。 これに対し、朝日新聞の科学医療部記者杉本崇などが猛攻撃を行っている。 この問題の重要な点は、明治が、科学的に不適切な「研究」の成果を誇張して発表し、自社製品に対する優良誤認を意図的に誘導しただけでなく、それを政府が後援したことである。

他にも、統計の扱いが酷い事例は多い。 健康診断における「基準値」を巡る問題では、 そもそも血中コレステロール濃度などにカットオフ値を設けて判断すること自体に無理があるのに、そこに目をつぶって、 延々と無益な論争を続けている。 数値の高低により盲目的に判断するぐらいなら、健康診断に医者が関与する必要はない。 さらにいえば、信憑性の低いコホート研究に基づく統計を根拠に、高コレステロール血症の良し悪しを議論しているのも、無茶苦茶である。

そんな中、朝日の Webronza に 4 月 2 日、 学校で教えてくれない「疫学」の大切さという記事が掲載された。 細かい所をネチネチと突くのが好きな私でさえ唸るほどの、見事な記事である。 さぞ高名な疫学者が書いたのだろう、と思って記者をみると、北海道大学の玉腰暁子教授である。 経歴をみると、名古屋大学医学部卒、同大学大学院医学系研究科満了、とのことである。 「満了」ということは「修了」ではなく、つまり、満期になるまで在学はしたが、博士の学位は取得せずに退学した、という意味であろう。優秀であることの証左である。


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